時代を切り開く「覚悟」のリーダーシップ 変革を推進するために本当に必要なコトとは

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2012年の全面リニューアルを経て経済・ビジネス系サイトでアクセス数トップクラスに成長した東洋経済オンラインのリニューアル10周年記念フォーラム「Transform Summit 2022 改めて未来を見つめなおし、時代を切り開く 『覚悟』のリーダーシップ」が3月23、24の両日、オンラインで開催された。オープニングで東洋経済新報社の駒橋憲一社長は「生き残りを懸けた変革が求められる時代に明確なビジョン、覚悟を持って変革に取り組むリーダーのマインド、取り組みを考察する」とテーマを説明。企業のリーダー、変革を支援するツールを提供する協賛企業らによる2日間、計12講演がスタートした。
主 催 東洋経済新報社
協 賛 NTTデータ、Slack(セールスフォース・ジャパン)、LegalForce、NTTコミュニケーションズ、トレジャーデータ、キリバ・ジャパン

基調講演
アフターコロナ時代のリーダーシップ

Zホールディングス Zアカデミア学長
武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 学部長
Voicyパーソナリティ
伊藤 羊一氏

Zホールディングスの企業内大学、Zアカデミア学長の伊藤羊一氏は「人を導くリーダーシップの前提には自分自身を導くリーダーシップ、Lead the Selfがある」と話す。

2020年4月の1回目の緊急事態宣言下、伊藤氏らはSNSやチケット販売サイトを駆使して、発案からわずか6日でオンライン授業ノウハウのカンファレンスを開催し、1000人を集めた。「テクノロジーは従来不可能だったことを可能にする。デジタルで何ができるか、自ら問いを立て、自分で仕事をリードすることが求められる」と語った。

就職後にメンタルの不調から出社できなくなったが、仕事での成功をきっかけに立ち直った経験を持つ伊藤氏は「『人は変われる』という譲れない思い」を持った。21年に開設された武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長も務め、頑張る学生を支えることで「人が変われることを証明したい」と言う。

「過去を振り返ると、現在の譲れない思い、信念に気づく。それに従って未来へ行動し、いろいろなことを知って行動を修正する。その繰り返しがLead the Selfだ。それが他人、社会をリードすることにつながっていく」と訴えた。

基調講演
変革を先導するために今リーダーに必要なものとは

早稲田大学大学院
経営管理研究科(ビジネススクール) 教授
入山 章栄氏

事業環境変化の波は、アフターコロナでさらに加速が予想される。経営学者の入山章栄氏は「企業は能動的に変化し、イノベーションを起こす必要がある」と強調した。

しかし、日本企業は変化もイノベーションもなかなか起こせない。原因は経路依存性だ。さまざまな要素が複雑にかみ合って成り立つ組織は、1要素だけ変えようとしてもできない。だが、リモートワーク普及が成果による評価、ジョブ型雇用へと波及する中で「経路依存性を脱して変化するチャンスが来た」と訴えた。

リーダーに求められるのは4つの能力だ。第1は、場数を踏むことで身に付ける意思決定力。第2は、知の探索。知と知の結合であるイノベーションを起こすには、できるだけ遠くのものを見て持ち帰る「知の探索」が必要だ。第3がセンスメイキング(腹落ち)。掲げたビジョンを語り、周囲を腹落ちさせて巻き込むことで、イノベーションにはつきものの失敗を受け止め、くじけない組織にする。第4は、メンバーがアイデアを不安なく話せる「心理的安全性」の担保。組織の人材の力を引き出して、多様な知を結集するサーバント型リーダーには「ファシリテーターの力も必要」と話した。

協賛講演①
アフターコロナの働き方を支えるデジタルワークスペース

NTTデータ
コンサルティング&ソリューション事業本部
デジタルビジネスソリューション事業部 統括部長
遠藤 由則氏

働き方改革のためのソリューション「BizXaaS Office(ビズエクサース オフィス)」を提供するNTTデータの遠藤由則氏は、コミュニケーションの不安、セキュリティーリスク、不十分な設備・制度といったテレワークの課題を挙げ、「出社に戻すのではなく、テレワークの長所を生かせる課題解決を模索すべき」と訴えた。

デジタルとリアルがバランスよく交わる理想のオフィスの要素技術はすでに登場している。同社は、離れた場所にいても同じ空間にいるような感覚を実現する超臨場会議システムなどの最新テクノロジーを実験的に導入。ゼロトラストセキュリティーも導入してノウハウを蓄積する。遠藤氏は「EX(従業員体験)向上の視点からも、従業員目線で改善してほしい課題を解決するため、多様な技術を組み合わせ、自社に合ったワークスペース環境をつくることが大事」と強調した。

最後に、「BizXaaS Office」を紹介。テレワークのための、あらゆるパターンの仮想デスクトップと、ゼロトラストの概念に基づいた統合セキュリティー基盤、それらの導入を初歩から支援するコンサルティングの3つのサービスを提供できるとアピールした。

協賛講演①
Slackで実現する"Digital HQ"での新しい働き方

セールスフォース・ジャパン
Slackマーケティング本部
プロダクトマーケティング ディレクター
伊藤 哲志氏

Slackのマーケティング担当の伊藤哲志氏は、「Digital HQ」を実現するビジネス向けのメッセージプラットフォーム・Slackの魅力を解説した。

コロナ禍で、働き方はオフィス中心からリモート中心に変わり、どこからでもアクセスして、仕事に集中できる環境が求められている。このデジタルな仕事環境「Digital HQ」を、Slackが実現する。

Slackは、単なるチャットツールにとどまらず、コミュニケーションのプラットフォームとしてアプリ連携をはじめとした、さまざまな機能を備える。プロジェクトやトピックごとの「チャンネル」でのやり取りはオープンに行われ、部門のサイロ解消に役立つ。音声と画面共有で気軽に会話ができる「ハドルミーティング」機能は、オフィスでちょっとした相談をするように利用。また、音声や動画録画をチャンネル内で「クリップ」ファイルとして投稿し、共有できる機能も設けられている。

さらに、Slack上でワークフローをノーコードで作成して、セールスフォースをはじめとする2500以上のアプリケーションとも連携。別のアプリに画面を切り替えることなく、Slack上に情報を読み出すことができる。これらの機能を活用し、あらゆる仕事をスピーディーに進める「Digital HQ」の実現を呼びかけた。

特別講演
オルビスが実行するDXとブランド変革とは

オルビス
代表取締役社長
小林 琢磨氏

自然に潤おうとする人の肌の力にフォーカスしたオイルカットの化粧品が支持されたオルビスだが、近年は伸び悩んでいた。18年から社長を務める小林琢磨氏が、同社の変革について語った。

低迷の原因は、商品の種類を増やし、キャンペーン値引きでお得感を訴求して売り上げを伸ばす「通販小売りの発想」にあった。そこで創業時の理念に戻り、「自分らしく年齢を重ねるスマートエイジング」を掲げたブランドとして売っていく変革に着手。バラバラだった商品群のデザインに統一感を持たせることから始め、得意のスキンケアのブランドとしての認知を高めるため「ORBIS U(オルビスユー)」のリニューアルに集中投資してヒットさせた。

今後はアプリを核に、顧客データを使ってパーソナライズ化したCX(顧客体験)を提供するDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指す。通販、店舗などチャネル別だった組織は、CXデザイン、顧客接点管理の機能別に再編。顧客に対し、チャネル横断的に体験を提供する体制を整えた。「顧客視点で一貫性を持たせるマーケティングの基本的な取り組みだが、変革に踏み出すには、マネジメント性の強いメッセージが大切」と話した。

特別講演
社長が変わり、社員が変わる。ホッピー3代めが語る組織変革の勘所とは?

ホッピービバレッジ
代表取締役社長
石渡 美奈氏

ロングセラーの「ホッピー」や地ビールなどを製造販売するホッピービバレッジの石渡美奈氏は「『3代め』の『め』がひらがななのは、目を開くという意味」と語り始めた。

結婚後に始めた広告代理店の仕事をするうちに「一生、仕事を続けたい」という思いが芽生え、父親が経営する同社に入社。同族の後継争いや、変革を急いだことに反発した工場長から「工場の全社員の意思」と辞表を提出(後に撤回)される”事件”を経た。そこで、父からの「心を共にして一緒にやってくれる社員を育てなさい」という言葉と、経営の師匠である中小企業経営コンサルタントの「よい企業文化をつくりたいなら、社員教育で手を抜いてはダメ」という言葉が重なった。

そこで新卒採用と育成に着手。内定段階から社会人意識を体得する前期5年、仕事を通じてプロの姿勢を身に付ける後期5年の計10年のプログラムを内製。「社員教育に肝心なのは『心磨き』。まねされない価値を提供するには、愛される企業文化が必要」と語る。そのために健康経営から地球環境問題のプロジェクト、地域との共創活動、文化芸術活動まで幅広い取り組みを展開している。

協賛講演②
契約業務DXがもたらす企業価値の向上

LegalForce
代表取締役社長/弁護士
角田 望氏

契約とは「当事者間の権利義務、債権債務関係を形成し、法的な拘束力を伴うので重いリスクがある」と弁護士資格を持つ、リーガルフォースの角田望氏は話す。

締結前には、不利な条項の有無や法律違反などのリスクをチェック。締結後も、契約違反、予期せぬ更新・解除のリスクを管理しなければならない。だが、人の目のチェック、人の手の管理には限界がある。そこで、提案するのが契約業務DXだ。

締結前に、契約書に潜むリスクの洗い出しを支援するツール「LegalForce」は、データ化(PDFとWordに対応)した契約書案をアップロードするとAI(人工知能)が数秒でチェックリストとの突合を行い、突合結果と修正の文例や弁護士監修の解説を提示する。「LegalForceキャビネ」は契約締結後の管理ツール。契約書のPDFをアップロードするとテキスト化して、膨大な契約書本文の中から探し出したい契約書の検索が可能になる。書庫に眠る契約書を活用できる状態にして、戦略的活用も可能に。さらに、AI解析で契約書データベースを自動生成。更新期限が近づくと自動でメール通知する機能もある。

「契約業務DXは、これまで人の手ではできなかった、隙のない契約のリスクマネジメントと、生産性向上を実現でき、企業価値の向上につなげられる」と訴えた。

協賛講演②
DX推進に必要な役割とマインド
‐変革のためのデータ思考‐

トレジャーデータ
カスタマーサクセス担当執行役員
重原 洋祐氏

カスタマー・データ・プラットフォームの提供を通じ、企業の変革を支援してきたトレジャーデータの重原洋祐氏は、成功するDX推進プロジェクトのポイントを語った。

ITは手段であり、ツール導入はDXプロジェクト(以下、PJ)の出発点にすぎない。運用段階まで進むには、新規顧客の獲得や、既存顧客とのコミュニケーション強化といった、明確な目的の設定が大切だ。

また、部署間の利害対立で、組織内のデータ取得に時間がかかることも少なくない。そこで、社内横断的なタスクフォースで、PJオーナー/リーダーが強い調整力を発揮できる体制を整えることが有効だとした。

PJは、仮説・検証を繰り返しながら進めるが、想定外の事態も起こるし、停滞に陥ることもある。それを乗り越えるPJオーナー/リーダーには「結果から学び、制約を受け入れて前進でき、挑戦を楽しめる成長志向のマインドセット」が求められると強調する。

さらに、タスクの「お見合い」にならないようにメンバーの役割の明確化と、外部協力企業が抜けた後も再現できる定着化をポイントに挙げ、「データを共通言語に小さな成功体験を積み上げることが大切」と訴えた。

協賛講演③
Smart Worldの実現に向けて
~DXによる社会・産業の構造変革~

NTTコミュニケーションズ
プラットフォームサービス本部
アプリケーションサービス部
第二サービスクリエーション部門 部門長
中野 誠氏

NTTコミュニケーションズの中野誠氏は、コロナ後のDX、新ビジネス創出を見据え、デジタルの力で社会課題を解決する「スマートワールド」に向けたサービスを紹介した。

日本の企業間取引の電子化率は約3割。紙ベース業務は遅延、間接コスト増の原因となるが、相手があり、個社での解決は困難だ。そこで産業全体で共通のプラットフォームを使うスマートビジネスを提案する。見積もり・注文・請求書をメタデータでやり取りする「BConnectionデジタルトレード」は、送受信などの標準機能が無料なので、取引先の協力を得やすい。

加速するサービス化の潮流には、新規のサブスクリプションビジネスの迅速な立ち上げを支援する「Subsphere (サブスフィア)」を、働き方を変えるスマートワークスタイルには、モバイルスイカと連携した法人プリペイドカードで、交通費、備品購入の経費精算をほぼ自動化する「SmartGo Staple(スマートゴー・ステイプル)」を紹介した。

中野氏は、①非競争領域業務は産業全体で無駄をなくす、②新たなビジネスへ挑戦し、デジタル接点を介して顧客と継続的な関係を構築する、③間接業務を大胆に減らし、生産性を高める――という3つの「覚悟」を促した。

協賛講演③
未来を扱う戦略部門
~財務部門の変革~

キリバ・ジャパン
ディレクター
トレジャリーアドバイザリー
下村 真輝氏

クラウド型財務管理システムを提供するキリバの下村真輝氏は、短期的には、ポストコロナの不確実な時代を生き残る成長戦略のための資金効率の最大化。中長期では、持続可能な経営に向けた財務ガバナンスの構築とサプライチェーンマネジメントが、財務部門の重要な役割だと訴えた。

資金効率の向上に取り組む企業も増えてきたが、現状は前月末時点のグループの現預金残高しか把握できていない場合が多く、タイムリーな経営判断につながらないと指摘。グループ全体の資金ポジションをリアルタイムに捉え、余剰資金を正確に把握すれば、使える資金をグループ内で創出できるとした。

中長期的な持続可能な経営に向けては、資金の「見える化」により、相次ぐ横領事件などの不正リスクを抑止、予防するガバナンスを強化する。また、サプライチェーンファイナンスの利用により、バイヤーは買掛債務の圧縮やフリーキャッシュフロー増加、サプライヤーは売掛債権の回転期間短縮や資金調達コスト削減が可能になるといったメリットを説明。これらの機能を備えたキリバの導入で、業務を自動化した財務部門は「意思決定の参謀役という高付加価値業務に専念できる」と語った。

ゲスト講演
オレ流野球の真実【決断と見守る力】本物のリーダーとは

元中日ドラゴンズ
監督・ゼネラルマネージャー
落合 博満氏

中日ドラゴンズの監督として8年間で4度のリーグ優勝、1度の日本シリーズ優勝に導いた落合博満氏はチーム改革について語った。

1998年に現役引退後、解説者として各球団のキャンプを回り、「なぜもっと練習しないのか」と感じた。2003年秋に中日から要請を受け、監督に就任すると「技術よりもシーズンを乗り切る体力をつけることが大事だ」と、秋のキャンプから練習量を増やすことを選手に課した。

翌04年春のキャンプでは、初日の2月1日から2日間は紅白戦を行うと伝え、選手にはオフの間に状態を仕上げて参加することを求めた。厳しい練習量を課した結果、初年度からリーグ優勝。「俺の中では1年目が勝負だった。これだけ練習したのに勝てないとなると後が続かない。結果を残す必要があった」と振り返る。

11年の日本シリーズ最終第7戦に敗れ、監督退任前の最後のミーティングで、選手たちが「12球団でいちばん練習してきたのだから、練習しないチームに負けたくない」と話すのを聞き「やってきたことは間違いなかった」と確信した。「監督は、選手の練習を観察し、それが正しいか、勝つために必要かを判断して不安を除くことも使命の1つ」と話した。

ゲスト講演
リストラからの日本一
ヤマハラグビーのオリジナル戦略

公益財団法人日本ラグビーフットボール協会 副会長
一般社団法人アザレアスポーツクラブ 代表理事
清宮 克幸氏

ラグビー・ヤマハ発動機ジュビロ元監督の清宮克幸氏は、トップリーグ2010-11年シーズンに入れ替え戦を経験したところから、15年に日本一になるまでの軌跡を語った。

09年11月、リーマンショック後のリストラで、ヤマハ発動機はラグビー部のプロ契約廃止の方針を発表。方針を決めた社長が1カ月後に退任すると、1年後に強化を再開することが決まるという混乱の中で、清宮氏は1年後の監督就任要請を受けた。

就任前の10-11年シーズンは戦力ダウンで厳しい戦いが続いたが、負けた試合の後にグラウンドに倒れ込み、泣いている選手の姿に感動した清宮氏は、11-12年シーズンの監督就任初日に「お前たちはいちばん熱い思いを持ったチームだ。一緒に日本一になろう」と訴え、選手を補強するより、オリジナルの戦略「ヤマハスタイル」構築によるチーム強化を進めた。中でもフランス合宿で磨いたスクラムは強力な武器となり、15年の日本選手権優勝に貢献。日本代表チームにも取り入れられた。

「ヤマハスタイルという言葉が浸透し、それをプライドに行動が変わった」。リーダーは、選手をその気にさせる熱い言葉、目標設定、オリジナリティーが大事だと語った。

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