次世代経営指標「LTV」 第5回

SUBARU(スバル)が2021年3月に開始した、中古車を借りられる月額制サービス「SUBARU サブスクプラン(スバスク)」は、契約者の大半をZ世代が占めるという。スバスク契約者は将来のSUBARU車オーナーの有望株だ。SUBARUはスバスクをはじめとする、さまざまなサービスを「SUBARU ID」という共通IDで利用可能にする基盤を21年に整えた。カスタマージャーニー全体を捉えた戦略で、長期的なLTV(顧客生涯価値)最大化を狙う。

SUBARUが2021年3月に開始した、月額制で中古車を借りられるサービス「SUBARU サブスクプラン(スバスク)」が若年層に受け入れられている
SUBARUが2021年3月に開始した、月額制で中古車を借りられるサービス「SUBARU サブスクプラン(スバスク)」が若年層に受け入れられている

 スバスクはSUBARUの中古車を、月額3万9820円(税込み)から借りられるサービス。貸し出す全車種に、速度の自動制御や車線変更のアシスト機能などを持つ運転支援システム「アイサイト」が搭載されているため、運転の初心者でも安全に運転できる。保険料やメンテナンス費なども料金に含まれており、付帯サービスなどを考慮せずに済む分かりやすい料金体系なのもポイントだ。提供地域は神奈川・新潟と、現時点ではまだ限定的な展開にとどまっている。

 このスバスク、「契約者のほとんどがZ世代だ」と国内営業本部ビジネスイノベーション部将来ビジネス企画開発グループの安室敦史主査は明かす。さらに、即断即決の傾向にあるという。「ある20歳の女性は検索連動型広告からサービスのページを訪れて、その日のうちに契約した」(安室氏)と驚きを隠さない。

 しかも、調査目的で契約理由を聞けば、クルマがある実家住まいの顧客が多いという。わざわざ、自分専用のクルマを借りる理由はなぜか。「直接的には言わないが、話から想像すると、運転が苦手で親の所有車をぶつけてしまうのではないかという不安があるようだ。スバスクで貸し出すクルマにはすべてアイサイトが搭載されていて、安全性が高い。保険も料金に含まれているため、ぶつけても安心という点が受け入れられているのではないか」と安室氏は説明する。自動車免許の取得後、レンタルサービスで運転に慣れたいというニーズを捉えているようだ。

 スバスクを通じて新たに獲得した若年層との接点は、SUBARUのLTV(顧客生涯価値)戦略で極めて重要な意味を持つ。レンタルサービスの利用者は、将来SUBARU製品の購入が見込める有望株だからだ。「SUBARUのクルマに乗り始めるとっかかりとして、有効に機能している」(安室氏)。SUBARUのクルマに乗り慣れたスバスク契約者は、将来マイカーの購入を検討する段階で、SUBARU製品を真っ先に想起する可能性は高い。実際に購入に至れば、LTVはさらに高まる。

 そうしたSUBARU車との最初の接点、購入、そして購入後のサポートまで、一貫して顧客とコミュニケーション可能なインフラも21年に完全に整備が完了した。1つのIDでSUBARUの全サービスを利用可能になったのだ。「クルマの買い替えは9年周期といわれる。F2転換(2回目の購入)に9年かかる。長期にわたって、顧客との関係を築くことを目指している」と安室氏は言う。

SUBARUは「SUBARU ID」を軸にスバスク、カタログ請求、Webサイトのアクセスログ、マイカーの管理などの利用データを統合的に蓄積し、マーケティングに活用する
SUBARUは「SUBARU ID」を軸にスバスク、カタログ請求、Webサイトのアクセスログ、マイカーの管理などの利用データを統合的に蓄積し、マーケティングに活用する

 IDをベースにサービス横断型で顧客データを取得し、CRM(顧客関係管理)基盤とトレジャーデータのCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)に蓄積。データを活用したコミュニケーションを実施し、クルマを愛用してもらう。そうして9年という長い旅路を乗り越えて、2台目にもSUBARUのクルマを選んでもらうことを目指す、長期的なLTV戦略を進めている。

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SUBARUが迎えている“正念場”

 SUBARUは現在、“正念場”を迎えている。10年にアイサイトの改良版を搭載した製品を発売すると、広告宣伝の妙もあいまって「12~17年にかけて新規顧客が大幅に増えた」(安室氏)。翻って、現在は22年だ。先述した通り、クルマの買い替えサイクルが9年だとすれば、買い替え需要が急速に高まる時期にちょうど差し掛かっている。2台目もSUBARU車を購入してもらえれば、LTVの大幅な増加が期待できる。

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