トレジャーデータ創業者 新年対談

〜2023年のトレンドとトレジャーデータの使命を語る〜

トレジャーデータ創業者である芳川、太田から新年挨拶として、2023年に向けたメッセージをお送りします。2022年の振返りをしながら、シリコンバレーの情勢から、トレジャーデータのこれからまで語りました。

創業以来初の景気後退を経験して

芳川:皆さん、あけましておめでとうございます。今回は、トレジャーデータ創業者による新年対談として、私が聞き手になり、太田CEOに話を聞いていきたいと思います。
シリコンバレーでトレジャーデータを創業して、12年が経ちました。実は創業以来、景気は常に上向きだったのですが、2022年に初めて大きな景気後退局面、いわゆるリセッションに入りました。
シリコンバレーはもちろん、グローバル規模で、テクノロジーカンパニーに様々な変化が起こりました。
トレジャーデータも例外ではありませんでしたが。太田さんは2022年をどのように振り返りますか?

太田:ある意味、当社は幸運だったと思います。アメリカでSaaSビジネスの景気が良い時期に資金調達を受けることができました。まさに大規模な人材雇用を進めようとしたときに、リセッションが来ました。まだ組織を見直すことができるタイミングでしたので、結果的に4〜5年のランウェイを確保して、どっしり構えて経営できる体制ができたととらえています。

芳川:そのとおりですね。企業経営には運の要素が無視できないと考えていますが、まさに運に恵まれていたと思います。逆境に直面しても、右往左往しなかったのが、トレジャーデータの2022年と言えるかもしれませんね。

太田:とはいえ、顧客となる企業がマーケティングの予算を削らざるを得ない現実は、直視しなければなりませんでした。マスマーケティングを中心に据えた大規模なキャンペーン施策を行っていた企業でも、リセッションの局面において、経営者はよりシビアにROIを意識するようになりました。マーケターは数字を示す必要に迫られています。
しかし、多くの企業がマーケティング予算を削減する一方で、データ分析にかける割合は増加傾向にあるとされています。各企業のCFOを対象にしたある調査によれば、マーケティング予算内に占めるデータ分析コストの比率が、今後3年で1.5倍以上になると予測されています。(The CMO Survey 「Marketing in a Post-Covid Era」, P.60)CDPの重要性は増していると私は考えています。CDPはまさに顧客データを収集、統合し、分析と活用を実装するツールです。

芳川:コンピュータとは合理化、効率化のために使われるものですから、不景気のときこそ必要とされるのかもしれません。マーケティングのデータを精緻に分析して、広告などのターゲティングを最適化していこうという働きかけが、重要になりますね。

2023年、予測される3つのテクノロジートレンド

芳川:シリコンバレーにいると、最新テクノロジーのトレンドに敏感になります。私たちのビジネス領域であるビッグデータやマーケティングテクノロジー、あるいは現在注力しているセールスイネーブルメントにおけるテクノロジーは、どのようなトレンドにあると考えていますか?

太田:先日、LUMA(ルーマ)という、デジタルマーケティングのM&Aアドバイザーによるカンファレンスに参加しました。そこで、いくつかトレンドが挙げられていましたが、その筆頭はCDPだったのです。各業界単位で、CDPのアダプションが進むと言われていました。(LUMA.「LUMA’s State of Digital Marketing 2022」 14:59〜)私たちには追い風といえると思います。

興味深いトレンドとしては、B to CマーテックとB to Bマーテックの「コンバージェンス(収斂)」です。
これまでB to C、B to B向けのマーケティングプロダクトは、ほぼ別々に存在していました。しかし、to Bの購買プロセスがコンシューマライゼーションしていることで、B to BにおいてもB to Cのようなスケーラビリティを求められるようになっていたり、一方でB to Cの領域では、B to Bプロダクトのソフィスティケイテッドな機能が求められるといったことが起きています。リセッションによる合理化の風潮もあり、これまでB to BとB to Cとで、プロダクトを使っていた企業がどちらか一方に集約する、といったトレンドが予測されています。

芳川:面白いですね。私たちのCDP自体は、どちらかというとB to Cで使っていただいていますよね。

太田:B to C向けに導入していただいた企業に、B to Bの部門でも使っていただけることもありえると考えています。

芳川:B to Bから入ってB to Cに広げるパターンもあるかもしれませんね。

太田:二つ目のトレンドはデータクリーンルームです。データクリーンルームは、Habuや InfoSum、Google、Amazonなど巨大企業がそろって提供していますが、統一的にアクセスできないことで起こる問題が指摘されています。
例えば、アメリカのテレビ局が、個人の視聴データをデータクリーンルーム経由で、広告主に提供しているケース。広告主によって使用したいクリーンルームが異なるため、提供側のテレビ局はすべてのベンダーと契約し、クリーンルームを用意しなければならない、といったものです。
そのような無駄をなくすため、さまざまなデータクリーンルームへ統一的にアクセスするにはどうしたらよいか? クリーンルーム自体、単体で成立するというより、ある製品の機能の一部として使われるものなので、M&Aが進むのではないか、といった話題が上がっています。

芳川:データクリーンルームが起点になって業界の再編が進む可能性があるということですね。

太田:そして三つ目に注目しているのは「ジェネレーティブAI」です。OpenAIの対話型自然言語処理ツール「ChatGPT」も話題になりましたが、興味深いですよね。「Jasper AI」は、コンテンツマーケティングの文章を自動生成してくれるものです。例えば「トレジャーデータのCDPを、リセッションの局面で有効活用する」という内容の記事を要求すると、そのとおりに書いてくれるのです。

芳川:私の連載記事も書いてほしいくらいです。

太田:ジェネレーティブAIが生成したコンテンツに対して、さらにSEOのツールをかけて自動最適化するサービスも登場しています。画像や動画など広告のクリエイティブにもAIが活用され、人間のモデルすら必要なくなりつつあります。本人そっくりのアバターに、自然にテキストを読ませることもできる。
クリエイティブの領域に、テクノロジーのイノベーションがきていると感じます。

芳川:クリエイティブの領域では、2022年にAdobeがFigmaを巨大買収しましたね。競合のCanvaは引き続き絶好調です。

太田:ディスラプションが進んでいますよね。データとコンテンツは表裏一体ですので、最終的に両者がどう重なって、統合されていくか、トレジャーデータの成長にとっても重要な観点となります。

大きな変化のただなかを前進した2022年のトレジャーデータ

芳川:トレジャーデータの2022年は、どんな1年だったか、人、お客様、プロダクトの面から聞きたいと思います。「人」の領域では、2022年の後半には、太田さんを中心として「バリューステートメント」の再定義に取り組みました。

太田:トレジャーデータのバリューに「Humility(謙虚であれ)」があります。私が考えるに、トレジャーデータには創業以来、日本人的な「謙虚さ」が根付いていると思うのです。

芳川:アメリカ本社側のリーダーにも、そういう人が多いと感じます。

太田:芳川さんから引き継がれた気質ではないでしょうか。相手に傲慢な発言をして相手を困らせるようなシーンは、トレジャーデータでは見られません。素晴らしい組織風土だと思います。
一方で、もの足りなさを感じる点もあります。世界最高のチーム「ウイニングチームを作る」ことに対して、さらに意識を高めたいと考えています。大切なのは、チームとしてのパフォーマンスです。優秀と言われる人がひとりでタスクをこなしたほうが、スピードは速いかもしれません。しかし、チームで取り組んだほうが、遠くに行くことができます。当たり前ですが、それを徹底していきたい。

芳川:お客様に対しては、どうでしょう?

太田:お陰様で新規のお客様が多く増えました。日本でも、世界でも、街を歩いているとお客様の広告や商品をたくさん見かけるようになりました。経済の一部をトレジャーデータが支えている、という実感が増しています。

芳川:日本では数年前からナショナルブランドで導入が進んでいましたが、アメリカでも世界的な企業に顧客となっていただきました。個人の感覚として、誇張ではなくトレジャーデータの世界が変わった1年だったと感じます。

太田:スペインを訪問したときの話ですが、お客様から「I love Treasure Data!」と歓迎していただきました。初めての国で、はじめて会う方が、私たちのプロダクトを愛してくれているのです。

芳川:ファウンダーとしては、胸に迫るものがありますね。

太田:引き続きグローバルで勝負を続け、お客様に価値を届けて行きたいと襟を正すきっかけにもなりました。

芳川:プロダクトの面では、どう考えていますか?お客様が増えた分、要望も増えたでしょう。一方で、新しいプロダクトも出しました。既存と新規への対応のバランスが難しい1年だったのかな、とは見ていますが…。

太田:正直に言って、5年前までのトレジャーデータのプロダクトは、UIがあまり良くありませんでした。最近はお客様から、「Audience Studio」のUIがとても良い、という評価をいただくようになりました。アプリケーション側で使いやすいUIを作るのが苦手、という弱点は克服したと感じています。
新しいプロダクトという点では、「Beyond Marketing」というテーマで、マーケティング領域以降のプロセスに対応するプロダクト開発に、人も時間も割きました。具体的には、Treasure Data CDP for SalesとTreasure Data CDP for Service、コンプライアンス向けのソリューションなどです。

芳川:長年マーケティング部門にサービスをご提供してきたトレジャーデータにとって、大きな変化ですね。

太田:はい。今の私たちのプロダクトとメッセージングは、企業全体の顧客データプラットフォームである「Customer Data Cloud」として、マーケティング部門にとどまらず他部門にも訴求するものへと進化しています。そこを組織全体でキャッチアップしていくのが、今後の課題と考えています。

芳川:課題の存在は、前進するドライバーでもあります。2022年は、収穫も学びも多い1年だったのですね。

太田:そうですね。2023年も勝負の年と認識しています。アメリカのインフレは底をついた感はありますが、経済の先行きはまだまだ不透明です。その混乱の中から、チャンスを見出していきたいと思います。
会社としては、変化に対して寛容であることが重要だと思います。1年前、2年前と同じ仕事していたら、現状維持も難しくなります。これまでのやり方を見直すことが必要で、変われなければ乗り遅れる。2023年はそんな1年になると思います。

「社会の公器」としての自覚と責任

芳川:トレジャーデータも、世界中で数百人が所属する組織となりました。2023年は、「社会の公器」としての活動をより推進していくことになると思います。
たとえば、「人」の領域でいうと、昨今世界中のテックカンパニーがリードしなければならないテーマとして「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」がありますが、どのように考えていますか?

太田:2022年には、女性社員比率の向上に取り組みました。グローバル全体のeNPSをみると、男性より女性の満足が高いことがわかっていて、良い傾向に進んでいると思います。
しかし、日本単体で見ると事情が異なります。アメリカは女性社員の比率が約34%なのに対し、日本は大幅に少ないのが実情です。2023年に課題感を持って取り組んでいきたいテーマです。まずは現場のリーダーから女性を増やしていますし、採用の段階から、ダイバーシティを重視して雇用を判断しています。2023年はD&Iへの取り組みも、改善を進めるべきときだと考えています。

芳川:性別だけでなく、人種やカルチャーバックグランド、セクシャルオリエンテーションなど、社内の意識が高まっていることを感じています。ぜひ進めていきましょう。

「人類のためのデータ基盤を作る」使命と倫理観を持って

芳川:「デジタルディスラプターから、伝統的な企業を守る武器」。数年来私たちがCDPを訴求してきたメッセージでした。そして現在、「デジタルトランスフォーメーションの一丁目一番地」として、より多くの企業が、多様な活用目的でCDPを導入していただけるようになりました。一部のユーザーに活用いただくというより、マーケティング、セールス、顧客サポートといった各部門を担当される方が、より生産的な仕事をするためのプロダクトになってきました。
「人類社会を前に進める」という社会的な意義を、トレジャーデータは提供しているのかなと。大げさかもしれませんが、私はそう感じています。

太田:生産性の向上という意味で同意です。トレジャーデータの売上や利益は、私たちが社会に提供した価値の最もわかりやすいプロキシです。

芳川:2022年は、私たちの企業活動と社会的なミッションが直接つながったと強く感じましたね。

太田:これまで、グローバル化を進めることで平準化された世界を作ろうと、人類の多くが考えていたのではないでしょうか。しかし、現実の世界は分断に向かっています。分断化はある意味非効率を生むわけですが、その情勢下にあってグローバルなデータソリューションを提供するというのは、やりがいのあるチャレンジだと思っています。トレジャーデータのプロダクトは、現在少なくとも72カ国で実装されているわけですから。

芳川:実際、ひとりひとりの人間に大きな変わりはなく、例えば国は違っても、コンシューマの基本的な行動パターンは同じであると考えられますね。データというセンシティブな領域で、壁は大きいですが、全人類に対して良い仕事をするという気概を持って取り組みたいですよね。

太田:その前提の上で、倫理観を持ってデータを扱うことは最重要に考えています。私たちが管理するデータが乱用されるような事態は、あってはならないことです。

芳川:根本的な問題です。例えば法規制は、お客様のビジネスに影響を与えることも少なくないですが、データを扱う事業者としては、例えば親の観点で自分の子どもや親にとって最適なデータの活用とはどういったものかと、人間としての倫理観で考えることが大切です。あとは、たとえ世の中のためになるであろうということであっても、節度を持つとか、各国政府が持っているルールは遵守するということですね。

太田:トレジャーデータでは、プロダクト開発やお客様へ提案をするときなど、常にこの視点を持って判断していきたいですね。

芳川:「やるべきこと」「やるべきではないこと」が、自然に見えてきます。こうしたカルチャーが、トレジャーデータには根付いていると信じています。

太田:「自社」や「お客様」だけで完結するのではなく「人類」のための事業としての節度、倫理観が重要です。利益や利便性のためのデータ活用と、プライバシー規制の両方を大切にプロダクトと事業を成長させていきます。
「人類のためのデータ基盤を作る」。これがトレジャーデータのミッションです。2023年も、このミッションのもとに歩みを進めていきます。

トレジャーデータについて

トレジャーデータは、2011年12月に米国で設立された後、2012年11月、事業開発および技術開発の拠点として、日本法人であるトレジャーデータ株式会社を東京に設立しました。米国、日本に加え、カナダ、韓国、インド、イギリス、フランス、ドイツにも拠点を置いています。トレジャーデータが提供する「Treasure Data Customer Data Cloud」は、企業のデータの力を引き出し、「Connected Customer Experiences」の実現を支援します。「Customer Data Cloud」はクラウド型の顧客データ統合基盤で、マーケティング、営業、コンタクトセンターをはじめとした様々な部門に最適化されたソリューションを通じて、よりパーソナライズされた顧客体験の提供を可能にします。企業は、信頼性と安全性を備え、AIを搭載した「Treasure Data Customer Data Cloud」と既存の仕組みを組み合わせることで、顧客の満足だけでなく、業務効率の改善、プライバシーリスクの低減、そして、さらなるビジネス成長を実現します。「Treasure Data Customer Data Cloud」のCDPソリューションは数々のアワードを受賞しており、グローバルで450社以上の顧客企業を有します。