「企業都合でコミュニケーションを自動化するだけでは、真のマーケティングオートメーションとは言えない」そんな信念のもとに、データ活用を進めるのは、株式会社山田養蜂場 通販営業部デジタルマーケティング室の有馬健司氏だ。シニア層を主な顧客としながら、CDPと生成AIを活用し、顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーションを設計する。
Treasure Data CDPの導入から、およそ1年の歩みを聞かせてくれた。

左:トレジャーデータ株式会社 CMO, Japan 宮野 淳子
シニアマーケットにもデータ活用は有効
山田養蜂場は先代社長の山田政雄氏が1948年に創業。病気がちな娘のためにローヤルゼリーを研究し、大量生産に成功したことから、1960年に通信販売を開始した。
現在、ローヤルゼリーやプロポリス、青汁、グルコサミンなどの健康食品、はちみつをはじめとする自然食品、クレンジングや美容液など化粧品と、合計100種類以上の商品を扱う。高精度な検査や厳格な輸送体制など品質管理を徹底し、単価に見合う高いクオリティが特徴だ。山田養蜂場グループ全体でのコールセンターへのコール件数は年間180万件、総会員数は1000万人を超える。
健康食品から入って化粧品を購入し、さらに自然食品に関心を持つなど、カスタマージャーニーはカテゴリを横断して広がる。そのため顧客コミュニケーションの設計は複雑で、現在はシナリオを約130本運用している。
従来はDM、カタログやメール配信の膨大なアクションを、3000以上のバッチ処理で行うなど、マニュアルで管理してきたという有馬氏。「長年通信販売を営む中で、データベースの設計が追いついていないところがあった。使いやすいテーブルの整理などがなされておらず、要件に応じて毎回フルスクラッチでSQLを作成し、セグメントや分析用のデータを抽出するしかなかった。そのため事業部門がIT部門にデータ抽出を依頼してから抽出するまで、1〜2週間かかっていた」。CDPを運用する現在は、こうした業務の工数と時間が、大幅に削減されている。

山田養蜂場の顧客の中心は70代以上であるが、有馬氏の緻密な分析の結果、この層においてもWeb上の情報が購買に大きな影響を与えていることが明らかになった。長らく出稿してきた新聞広告などで一定の認知を得ているからこそ、Web上のリッチなコンテンツが顧客の関心を深める決定打となっている。
一般に年齢が上がるほど、一度関係を構築すれば他ブランドへのスイッチレートは下がる傾向にあるため、デジタル上で顧客を早期に可視化し、接点を持つ意義は極めて大きい。また、CDPの導入によってWebサイトへのアクセスといった購買前の行動データをリアルタイムで把握できる利点もある。
例えば、「以前はローヤルゼリーを購買した休眠顧客が、現在は青汁に関心を持っている」といった変化を即座に検知することが可能だ。顧客の変化を可視化できれば、過去の購買データに基づいた画一的なDMを送るのではなく、今まさに興味がある青汁に関するコンテンツを最適なタイミングで提供できる。このようにデジタル活用とTreasure Data CDPの導入は、顧客満足度の向上とマーケティング効率の抜本的な改善を同時に実現している。
セグメント作成、ジャーニーの設計が民主化した
CDPの最も大きな効果を、有馬氏は「スピードと効率の向上」と表現する。
例えばDMを発送する際、従来は前述の通り、事業部門がIT部門に顧客データの抽出を依頼していた。スムーズに進んだ場合でも、施策の実行までには1〜2週間を要していた作業だ。
そんな中では、想定していたセグメント条件が実態に合わず、調整が必要になることも少なくなかった。例えば「10万人にDMを送りたいのに、その条件では3万人しか抽出できない」といったケースが起こり得る。その場合、条件を再設定し、改めてデータベース内で集計を行う必要があり、施策の実行はさらに遅れてしまう。
一方、Treasure Data CDPのAudience Studioを活用することで、GUIで条件を設定し、対象人数を確認しながらセグメントを作成できるようになった。事業部門とIT部門のメンバーが同じ画面を見ながら条件を調整し、1〜2時間でデータ抽出が完了する。

従来は担当者しか見えなかったセグメントの条件が、現在はCDPにすべて集約されている。社員同士の情報共有や相談の場が増えたことに対し、「良い文化が形成されている」と有馬氏は評価する。
また、有馬氏は「キャンペーンの可視性とアジリティ」もCDP導入の効果として強調した。以前は大量のバッチ処理によりシナリオを作成していたため、SQLのスキルを持つメンバーでさえも、カスタマージャーニーの全体像を確認できなかった。
しかし、直感的なGUIでシナリオ作成ができるTreasure Data CDPのジャーニーオーケストレーションにより、ブラックボックスが解消された。多くのメンバーがジャーニーを理解し、シナリオを調整できるようになったという。
顧客中心のマーケティングオートメーションにAIを活用
このように、CDP活用を進める中で、同社はAIの活用にも積極的だ。有馬氏は具体的な取り組みを説明する前に、「マーケティングオートメーション」について、興味深い洞察を語ってくれた。

一般にマーケティングオートメーションとは、あらかじめ設定した条件やルールに基づき、メールやDMなどの施策を自動で実行する仕組みを指す。しかし、「企業が一方的にDMやメールを送っている限りは、マーケティングオートメーションとは言えない」と有馬氏は指摘する。「真のマーケティングオートメーションとは、ユーザーを第一に考えた施策のことだ」という。
例えば、購買の1カ月後、週に1回など、企業が決めたタイミングでコンタクトをとるのでは不十分。顧客が「買いたい」「興味がある」と思っているタイミングに、その商品のDMが届くような、ピンポイントのコミュニケーションができればすばらしい。
その状態を目指す時「人間がすべてのデータを見て実現するのは難しい」と有馬氏。それぞれの顧客と、効率よく最適なコミュニケーションを行うために、同社は生成AIを活用する。

例えば顧客が商品を購入すると、CDPのデータをAIエージェントが分析し、次に関心を持ちやすい商品やカテゴリを割り出す。次にWebサイトを訪問した際、一人ひとりに合わせた商品レコメンドやコンテンツを表示することが可能だ。
Webサイトで十分な反応が得られなかったことがわかれば、LINEやメール、DM他の接点も検討する。このとき、デジタルに慣れていない顧客にはDMを、忙しい現役世代にはLINEを活用するなど、顧客の状況に合わせたコミュニケーションを選択することが重要だ。
こうした取り組みは、CDPによって本人の顧客データが、チャネルを横断して統合されるからこそ可能になる。同社の極めて重要な顧客接点であるコールセンターでも、同様のデータおよびAI活用が可能だ。
経験豊富なオペレーターは、会話の中から「食生活が不安」「膝が痛い」といった顧客の状況を引き出し、青汁やグルコサミンなど、より文脈に沿った商品を提案する。難易度の高い対応ではあるが、有馬氏は、こうしたコミュニケーションをデータと生成AIの活用によって実現しようとしている。
Web上の行動データや過去の通話履歴などをもとに、AIが顧客の傾向を把握し、適切なレコメンドをオペレーターに提示できれば、より顧客に寄り添った対応が可能になる。結果として、顧客満足度の向上に加え、オペレーターの負荷軽減や対応品質の平準化にもつながるだろう。

ここまで至れば、有馬氏が語るマーケティングオートメーションの姿は、確実に現実へと近づいていく。「私たちはダイヤモンドの原石のようなデータをたくさん持っているが、それだけでは使うことはできない。生成AIで原石を磨くことにより、データは真価を発揮する」と有馬氏はさらなるAI活用に意欲を示した。



