CX経営~事業収益向上を叶える顧客データマネジメントとは
公開日 2026/04/02
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション パートナー
顧客とのコンタクトポイントがデジタル化し、日々データ基盤に蓄積されていく顧客の様々なデータ。このデータを起点とした効果的なマーケティング施策を展開し、顧客と深い関係づくりを進めることが重要であることは周知の事実であるが、一方でどのように活用すれば効果的にデータ活用から事業インパクトを生み出せるかという問いに、明確な最適解を得ている企業は少ないのではないだろうか。実際に、企業はどのように顧客データを活用し、そして顧客との関係づくりを深めていけばよいのか。EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション パートナーの青木健泰氏が解説した。
ただ顧客満足度を追及するのではなく、企業が成長するための重要な戦略としてCXマネジメントを捉える。
CXの改善と管理により、売上・利益への貢献、コストの抑制、経営資産としての顧客基盤の強化、人的資本の強化といった価値の創出が期待される。
CXマネジメントにおいては、顧客データに基づき収益への貢献を評価・改善し、顧客エンゲージメントは顧客データ全体の分析から評価する。

企業の成長戦略のなかで不可欠になったCXのマネジメント
まず青木氏が示したのは、企業活動における「カスタマー・エクスペリエンス(CX)」の重要性が高まっているという点だ。かつては、事業のデジタル施策やデータ基盤の整備、そしてマーケティング施策を推進していくなかで考えられてきたCXは、その責任者が「チーフCXオフィサー(CCXO/CCO)」としてCMO(チーフマーケティングオフィサー)のもとで顧客満足度向上にコミットするようになり、昨今ではこのCCXO/CCOがCEOの直下に置かれ、「最高顧客戦略責任者」として役割が進化しているという。

こうしたCX領域の責任者の急増とその地位の向上は、データを活用してCXをコントロールできるデジタル基盤や顧客接点が確立したことを背景に、全社で統合されたCX設計、実行、マネジメントを本格化させ、収益性の高い顧客戦略の推進が重視されるようになったことを示唆しているのだ。
青木氏は、こうした環境変化の背景について、顧客接点や価値観の多様化による「顧客のカスタマージャーニーの複雑化」、業界における競争スピードの激化を背景とした「製品・サービスのコモディティ化」、そして同じく競争環境の厳しさによる「顧客獲得コストの増加」を課題として挙げる。
「こうした課題を抱えるなかで、収益性を高めたり顧客のライフタイムバリュー(LTV)を高めたりするためには、CX=顧客体験をデータの活用によって可視化し、マネジメントできる環境を活用したミッションを管掌するCCXO/CCOの責任は重大なのだ」
(青木氏)

では、このCCXO/CCOのミッションとは、どういったものなのか。「単純に顧客満足度を上げるといった抽象的なものではない」と青木氏は語る。
「LTVの高い顧客の育成によって、どのように売上や利益に繋げられるかを考え、それを起点にビジネスをオーガニックに成長させていくことがCX経営におけるミッションのひとつだ」
(青木氏)
このミッションを実現するためには、自社の組織が顧客に対してどのように向き合っていくべきかという視点で組織構造そのものの見直すことから始まり、どのようなKPIを設定すればミッションの達成に繋がるかというKPI設計を全社的に行い、そしてそのKPIを追求するために実際に顧客データをどのようにマネジメントするかという運用設計まで、CCXO/CCOが担うタスクは多岐にわたる。「CXの改善とマネジメントは、単なる顧客満足度の向上やブランド価値の向上というものではなく、あくまで企業の財務的な価値をどのように上げていくか=利益の拡大を考えていくことが重要なミッションとなる」と青木氏は語る。

CXマネジメントによって創出される4つの財務的価値
ここまでの話を踏まえ、青木氏はCXマネジメントによって生み出される財務的な価値について、4つのポイントを上げた。
ひとつは、売上への貢献だ。CXマネジメントにおける様々なアクションをLTVの最大化に繋げることによって、売上や利益といった財務指標への貢献を可視化することが期待できるという。これまで、カスタマージャーニーの分析や顧客体験の創出と改善といったタスクは、マーケティング部門の領域でマーケターが中心に担ってきた。もちろん、様々なマーケティング指標によって身近なKPIは可視化されているが、「結果的にその活動が企業全体の財務指標とどのように繋がっているかという点は、どうしてもグレーで見えにくい世界だった」と青木氏は指摘する。
そこにCCXO/CCOが入ることによって、CCXO/CCOは顧客を「面」で捉え、顧客当たりの年間売上や顧客のランク別分布、顧客の企業・ブランドに対するCX評価などの指標をもとに顧客ロイヤリティを可視化。その上で、「どのターゲット層にどのような体験設計を描き、どのような施策を展開するのか。その結果、どのような効果=売上や利益が生まれたのか」を可視化することによって、CX施策が財務指標である売上や利益にどのような貢献をしているのかが明確になるのだ。

次に青木氏が挙げたのは、コスト抑制効果だ。まずは、新規顧客コストについてはCXマネジメントによる既存顧客とのコミュニケーションを活かしてマーケティングを展開することで、広告などで新規顧客を獲得するのではなく既存顧客を介した新規顧客の獲得が可能になり、結果的に新規顧客コストの抑制に繋がるという。加えて、CXマネジメントによって顧客からの問い合わせ件数を削減できればカスタマーサポートにおける人件費などを削減でき、また同じように返品率を削減することで返品処理コストも削減でき、利益の底上げに繋がるのだ。

そして、3番目に青木氏が挙げたのが、経営資産としての顧客基盤の強化だ。一般的に、企業にとっての経営基盤といえばブランド資産とデータ資産を挙げる人が多いが、これらのいずれも「顧客」に依存する要素だ。顧客の数が増え、顧客のエンゲージメントやロイヤリティが高まれば、結果的にブランド価値が上がり、さらにそのブランド価値に顧客が集まる。そう考えると、顧客基盤そのものが企業にとって資産と捉えることができ、つまりCXマネジメントはそのまま企業の経営資産を強化することに繋がるのだ。
「経営資産としての顧客基盤の価値を最大化するためには、顧客データをいかに精緻に分析して、属性や行動特性や趣味や指向性を見える化する。こうしたデータをマネジメントしていくことで、結果的に顧客基盤が強化され、そこから生み出される利益も上がっていく。こうしたROAをどのように高めていくかもCCXO/CCOの重要なミッションだ」
(青木氏)

最後に、青木氏が挙げたのは、人的資本経営の推進だ。企業が従業員のモチベーションを高め、ロイヤリティを生み出していくためには様々なアプローチがあるが、青木氏は「多くの従業員にとっては、自社の商品やサービスを顧客に使ってもらい、喜んでもらうことが、実は一番のモチベーションになるのではないか」と提言する。つまり、CXマネジメントを通じて顧客に対してよりよいサービスを提供し、顧客からの良いフィードバックが得られれば、従業員は企業からの評価も得られ喜びにも繋がる。この循環を生み出していくことが、人的資本経営にとって重要な要素となっていくのだ。

AIの普及による顧客変化のなかで、企業はどのように利益を生み出すか
青木氏は、消費者のスマートフォンでも活用されつつある昨今の生成AIの普及について「より便利なサービスが手軽に利用できるようになり、ユーザーはデジタルデバイスのスクリーンの中ではさらにコスパやタイパを求めてAIを活用して効率を追及していく。一方で、スクリーンの外では、コスパやタイパの追及で生まれた時間やお金、労力を、自分がもっと大切にしたい価値に使っていく」と語る。顧客の行動プロセスや価値観は、スクリーンの外と中で異なる方向へと進み、2極化するのだ。
その上で、「消費者が自分のこだわりや大切にしたい価値、唯一無二の体験がしたいという部分にお金を払っていく傾向にあるとすると、自社の製品・サービスがこうした消費者にとってどこに位置づけられているのかを考えていかなければならない」と青木氏は課題提起した。
「顧客との関係性のなかで、あるいは顧客のコンディションによって自社の製品・サービスが現在コスパやタイパ重視なのか、体験価値重視なのかなど、どこに位置づけられていて、その顧客にどのようなCXを提供していかなければならないかを考えることが、これからの重要な視点になる」
(青木氏)
こうした顧客環境を踏まえ、顧客起点のCXマネジメントでどのように利益を生み出していくべきなのか。青木氏はカスタマージャーニーの様々なプロセスのなかで、顧客のコンディションを捉え、顧客ニーズの把握や仮説の検証を行うためには、プロセスの最後にあたる「評価/改善」にフォーカスすることが重要になると語る。「施策を展開して効果が得られたとしても、それを次に活かせないという状況をいかに変えていくかが重要」と青木氏は強調する。

こういったCXの新しい捉え方のもと、企業やブランドに対する顧客からの評価については、CSAT(顧客満足度スコア)やNPS(ネットプロモータースコア)といった従来から行われているサンプル調査に基づいた指標だけでは十分ではなく、「自社の顧客全員の行動や態度をもとに、顧客の熱量やアテンションをデータ化・可視化していくという視点が、CXマネジメントにおいて重要になる」と語り、こうした顧客全体の包括的な評価を行う「顧客ヘルスインデックス」は、グローバル企業において注目されていると紹介した。
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CX経営を実現するための組織の在り方
ここまでの説明を踏まえて、青木氏はまとめとして、「CXマネジメントを中心とした経営の実現に向けては、顧客行動や顧客行動の根拠として取得できるデータを用いて、『戦略策定/モニタリング』『PDCAの実行』『基盤構築』のそれぞれのレイヤーにおいて様々な変革が必要となっている」と述べた。

その上で、「どこから変革に着手すればいいのか」という課題に対して、CXの向上を念頭に置いた組織づくりやTreasure Data CDPをはじめとしたデータ基盤の整備、既存顧客を対象にしたロイヤリティプログラムの整備など、CXマネジメントを構成するひとつひとつの要素は「既に多くの企業が導入・実践している」とし、「現在実行できているところを起点として、CXマネジメントの全体像を見渡しながらCX経営の実現を目指して欲しい」と提言して締めくくった。

その上で、CX経営をリードする組織の在り方として、データに基づいた顧客理解とCXの高度化をひとつの製品・ブランドに対してではなく自社の顧客全体に対して行い、これによって売上・利益の創出をリードする「CXデザイン&マネジメント」、顧客データ基盤の整備やCXを最適化するシステムの構築などをリードする「CXプロダクトマネジメント」、そして最後に顧客データを起点にして新たな収益を創出するための事業開発をリードする「データ起点事業開発」という3つのチームをCCXO/CCOの下に置き、社内の事業部門やCS部門、情報システム部門と連携しながらCXマネジメントを推進するという、CX経営の理想的な組織のあり方を示した。
