ブラウザ等のクッキー規制が強化されるなか、多くの企業がデジタル広告における1st パーティデータの活用に注目している。そんななかで、データソリューションに強みを持つ朝日広告社は、Treasure Data CDPを基盤とする広告最適化ソリューション「Conversion Predictive Optimizer™」を開発した。
CDPをベースに1st パーティデータを活用し、さらに機械学習もかけ合わせて成果を上げる広告施策とはどのようなものか? 株式会社朝日広告社の仲野秀悟氏、宍倉潤氏、さらに、事業会社としてTreasure Data CDPを活用する株式会社TSIの竹山健司氏が、活発な議論を交わした。
1st パーティデータを基にサイト訪問者をスコアリング
1996年からデジタル広告の支援に取り組んできた朝日広告社。インターネット広告代理店と同等の専門性を追求しつつ、総合広告会社としての強みを生かすという、独自ポジションの確立を目指してきた。データソリューションにも注力しており、 CDPをはじめ環境の構築からデータ分析、それらに基づく施策の実行まで、一気通貫で支援する。
仲野氏は広告運用を支援する立場から、インターネット広告のトレンドについて解説した。ひとつめのトピックは「機械学習」だ。
「Web広告全般で、機械学習による自動最適化が主流となっている。現状のメリット、デメリットを整理したい」と仲野氏。メリットに挙げたのは「効率的なターゲティング」だ。広告プラットフォームは、データに基づく機械学習を用い、人の作業を代替し、人では不可能だった分析も行う。運用担当者は少ない負担で、効率良く広告運用が可能になった。
一方、機械学習のデメリットとして問題視するのは「機械学習のロジックがブラックボックスである」ことだ。「良い結果が出たとしても、その理由がわからなければ、次の打ち手につなげられない」と、仲野氏。自動最適化に頼ると、人がユニークな施策を出しづらくなり、運用による差別化ができなくなると指摘する。

もうひとつ、仲野氏が挙げたトピックは「クッキー規制」だ。「Google Chromeのサードパーティクッキー廃止は撤回されたものの、Safariなど多くのブラウザーではクッキー規制が強化されている」(仲野氏)。企業がユーザーの同意を得て取得する1st パーティーデータの重要性が高まっている。

そこで、同社が開発したのがコンバージョン予測を最適化するソリューション「Conversion Predictive Optimizer™」。1st パーティデータを基に、サイト訪問者一人ひとりにコンバージョン予測スコアを付与する。広告主は、そのスコアを基に広告配信を最適化することが可能だ。
データソリューションを担う宍倉氏は、Conversion Predictive Optimizer™のロジックを次のように解説する。
「収集した1st パーティーデータを変数とし、アクセスしたデバイスやブラウザ、閲覧したコンテンツなど、コンバージョンしたユーザーの特徴を学習する。予測モデルを構築したうえで、コンバージョンしたユーザーに近い行動を取るユーザーに、高い予測スコアを付与していく」。

Conversion Predictive Optimizer™を活用した広告配信には、大きく3つのパターンがあるという。
「一番シンプルな配信パターンは、高スコア(コンバージョンの可能性が高い)リストにのみ配信するパターン。次は、高スコアのリストをシードに、広告アカウント側で類似拡張を行うパターンで、コンバージョンのデータ量が少なく、プラットフォーム側の機械学習が利用できない場合などに有効だ。
最後は、予測スコアの高低で複数のセグメントを作成し、入札の強弱をつけたりクリエイティブを分けて配信するパターンだ。コンバージョンの確率が低いユーザーを単純に切り捨てるのではなく、スコアに応じて広告の目的を変えて出稿する。 例えば、広告の目的を(購入や申込みではなく)再訪問に置くなどのアプローチで、潜在的な顧客を育成することができる」(宍倉氏)。
あるEC事業者の事例では、Conversion Predictive Optimizer™の運用により購入件数が188%アップ、ROASは130%アップと、成果を挙げた(※広告プラットフォーム側の自動最適化配信結果との比較)。「プラットフォーム側の機械学習による単純なコンバージョン最適化と比較して、サービス関与度が高いユーザーに最適化することができた。」と、宍倉氏はソリューションの可能性を示した。

なお、Conversion Predictive Optimizer™は、Google広告、Meta広告、LINE広告、X、YDA(Yahoo! ディスプレイ広告)の主要プラットフォームに対応。各媒体とも、Google Tag Managerの利用が必須となる。

宍倉氏は今後の展望として、予測モデルの精度を左右する特徴量(変数)の、適切な選択を課題に挙げた。「統計的なアプローチで重要度の高い特徴量を抽出し、モデル構築に反映している」と述べ、継続的な精度向上へ強い意志を示した。
同時に過学習(学習時のデータに最適化しすぎて、未知のデータを使用する際の精度が低下する)、データリーケージ(本来予測に適さない情報が特徴量に含まれる)の可能性にも配慮する。「実際はコンバージョンの可能性が高いユーザーに、低い予測スコアをつけてしまう場合がある」(宍倉氏)と、繊細な調整の必要性に言及した。

さらに、宍倉氏は統合されたデータの重要性を強調する。Conversion Predictive Optimizer™のデータ基盤には、Treasure Data CDPが採用されており、多様な1st パーティデータを活用できる仕組みが整っている。
まず宍倉氏が挙げたのは、ドメイン、デバイスタイプ、流入元、曜日や時間帯、閲覧コンテンツ、コンバージョン有無といった「自社サイトセッション時の属性情報・行動ログ」。これにより、前述のようなWeb上でのコンバージョン予測モデルを構築できる。
さらに、ECサイト等で取得可能な購入商品、購入金額のデータをかけ合わせれば、高額商品購入の可能性が高い顧客など、よりビジネスに直結する「特定のコンバージョン予測」が可能になる。ここまでは、Treasure Data CDPの計測タグを利用するなどして、比較的スムーズに取得できるデータだ。
さらに宍倉氏は、リアル店舗などオフラインでの接点、成約履歴や契約者情報などの「CRMデータ」の重要性を訴える。広告主の基幹システムなどとTreasure Data CDPを連携させる必要があるため、データ取得の難易度は高いが、活用のメリットは大きい。

「例えば、店舗での成約者(購入者)を教師データにしたオフライン含む契約予測モデル、ロイヤル顧客を教師データにした LTV予測モデルなどを作成できる。よりコンバージョンの『質』を重視した予測を行うことができる」と、その効果を強調した。
広告主目線で見るConversion Predictive Optimizer™
「ナチュラルビューティーベーシック」「ナノ・ユニバース」「パーリーゲイツ」など、40以上のアパレルブランドを展開するTSI。その中で竹山氏は、Treasure Data CDPによるデータ基盤の構築・分析を手掛け、活用においても先進的な取り組みを、数多く推進してきた。竹山氏から見て、広告主がConversion Predictive Optimizer™を導入するメリットとは、どんなところにあるのだろうか?
竹山氏が着目したのは、宍倉氏が配信パターンの3つめに挙げた「入札の強弱をつけ、コンバージョン予測スコアの低いセグメントにもアプローチする」手法だ。「現在の広告配信は、学習するデータの母数を増やすことを重視する一方、顧客を細分化して効果検証を行うのは難しい。(Conversion Predictive Optimizer™は)きめ細かく成果を可視化して、次の打ち手に活かしていける仕組みだ」と評価した。

LTVの高い顧客に似たユーザーを拡張して配信するなど、ポジティブデータを起点とした施策は、Treasure Data CDPの活用事例においても一般的だ。しかし、ネガティブな要素を含む顧客の行動にも注目し、コミュニケーション全体を設計する朝日広告社の取り組みは、マーケティングの発想の転換を感じさせる。
竹山氏の評価を受け、宍倉氏は「プラットフォームの機械学習により、配信ロジックがブラックボックス化する一方で、広告運用者が説明責任を果たす意識を持ち、自らシナリオをつくり、予測スコアが低い顧客をどう育成するか、など検証することも大切。ここに、広告代理店が介在する意味がある」と述べた。
ここには前述のとおり、顧客のLTVやコンバージョン予測に基づき、KPIを調整するという考え方が含まれる。竹山氏はKPIについて「短期と中期の見方がある」としたうえで、「短期では売上、ROASを見る」と断言した。そのうえで、獲得の難しい新規のコンバージョンと、既存顧客のコンバージョンを分けて評価するなど、顧客軸の分析を提案する。同社はTreasure Data CDPにより両者を分析しているが、竹山氏は広告配信でも「可能な限り、新規と既存でセグメントを分け、配信していく必要がある」と指摘した。
こうした顧客を軸としたCRM領域と、広告領域の融合は、現代のマーケティングの重要な課題であり、Treasure Data CDPの運用でも期待されるテーマだ。TSIでは運用型広告とMAの担当者が同じチームに所属し、連携して最終的な成果の向上にコミットしている。
その事例のひとつが、Treasure Data CDPのジャーニーオーケストレーションを活用した、初回購入顧客や休眠顧客への施策だ。竹山氏によれば、多くの顧客は広告で初めてブランドに接触し、メールやアプリプッシュなどのコミュニケーションを経て、コンバージョンに至るという。「広告での初回接触で購買まで至らなかったサイト訪問者も、顧客化、ロイヤル化できるよう、一気通貫で複合的なアプローチに取り組みたい」と展望した。仲野氏、宍倉氏も、広告を入口にした一貫したマーケティング支援が重要である、と同調する。
最後に、「検索連動型広告におけるセグメントの利活用」に話題が及ぶと、仲野氏は次のように語った。
「広告主の多くは、自社ブランド名など(ユーザーの購買確率が高く入札単価の低い)スモールキーワードを中心に出稿する。しかし実際の検索行動を時系列で見ると、ユーザーはまずビッグキーワードで比較検討を始め、最終的にブランド名検索へと移行するケースが多い。
ビッグキーワードは入札単価が高いものの、ブランド指名検索へ至る可能性を予測し、スコアの高いユーザーに絞って配信するなど、精度を高める工夫は十分にある」。

竹山氏は、「購入確率やLTVが高いユーザーの予測を立てること自体、かなり難易度が高く、広告主には大きなメリットがある」と再度評価した。検索連動型広告においても、現状ではブランド名への入札が主になっているが、仲野氏が述べるようなチャレンジも可能だという。「手が出しづらかったビッグキーワードへの出稿も検討できる」と、意欲を示した。

CDPと1st パーティデータ、そして独自の機械学習を活用した広告配信は、単なる運用効率の向上の取り組みにとどまらない。朝日広告社とTSIが実践する顧客起点のチャレンジは、広告プラットフォームのロジックに依存しない、自律的で戦略的なマーケティングの方向性を示している。



