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鉄道起点からすべての顧客起点への転換:JR東日本のデータマーケティングの取り組み

事例顧客
  • 東日本旅客鉄道株式会社
    マーケティング本部 戦略プラットフォーム部門 データマーケティングユニット 担当部長
  • 渋谷 直正氏

「鉄道起点」から「顧客起点」へ。東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)は、本格的なデータ活用の推進によりマーケティングを大きく転換させている。その中心となるのが、JR東日本の顧客データとTreasure Data CDPを連携し、さらに高度な統計手法も駆使した多角的な顧客分析だ。同社でマーケティングの変革を推進してきた渋谷直正氏が、ラスベガスで2025年11月に行われたCDP world 2025で発表を行った内容によると、実に豊富な実践例を示してくれた。

データドリブンマーケティングへの変革
変革の核としてTreasure Data CDPを採用。Suicaをはじめとする顧客データと連携し、多様な施策を実行する。
顧客理解を促進
SuicaとJRE POINTデータの連携により、移動・購買データに基づくマーケティングが可能に。One to Oneのコミュニケーションが加速した。
各統計手法を活用
ソフトクラスタリング、pLSA、生存分析などの統計手法で得た精緻な顧客分析を、マーケティングの高度化につなげた。

事業拡大に不可欠なOne to Oneのコミュニケーション

JR東日本は、世界最大の旅客数を誇る鉄道会社であり、収益の7割を輸送サービス事業から得る。その一方で、都市開発や不動産、小売・サービス、ホテル、Suicaなど、多岐にわたる生活サービス事業を展開。今後大きな成長が見込まれる分野として、生活サービス事業の収益を全体の5割程度まで引き上げることを、中期経営計画の目標に掲げている。そのカギを握るのが、日本で最も広く利用されている交通系電子マネーのSuicaだ。

SuicaのIDには、鉄道の改札通過や小売店などオフラインの利用履歴はもちろん、新幹線・特急列車の予約・購入サービス「えきねっと」やECサイト「JRE MALL」といったオンラインの情報も連携される。「(チャネルを横断して)顧客についての多様なシングルソースデータを取得することができる」と渋谷氏はその意義を評価する。

渋谷氏は「鉄道会社は従来はお客様を個人ごとではなく、マス(大衆)として捉えていた」と、従来のマーケティングを表現する。チケットに個人情報がひも付く航空会社などとは異なり、個々の顧客を特定できない鉄道会社ではきめ細かいCRMを実施できなかった、という背景だ。

しかし現在同社は、SuicaとJRE POINTを連携させることで、膨大な会員情報を保有する。これにより個々の顧客行動を詳細に把握し、One to Oneのアプローチができるようになったのだ。

「これは鉄道業界にとって革新的なことだ。当社は顧客中心の企業へと変革を遂げている」と自信を隠さない渋谷氏。実現のための最優先事項とするのが、顧客と幅広く長期的な関係性を築くデータドリブンマーケティングだ。

同社では、Suicaなどから得られる顧客データをTreasure Data CDPで一元的に管理し、多様なマーケティング施策に展開する。「顧客中心のデータマート」(渋谷氏)を作成し、適切な情報を適切なタイミングで届け、顧客満足度の向上と顧客生涯価値(LTV)の向上を実現するのだ。顧客中心のコミュニケーションにより「JR東日本は『気が利いている会社だ』と、お客様に思っていただけるようにしたい」と渋谷氏は展望する。

CDPを軸とする多彩なデータ活用

続けて渋谷氏は、同社が行う多様なCDP活用事例を紹介してくれた。まず示したのは、新幹線予約のデータを活用したメール配信施策だ。予約客の旅行前日に、出発地、目的地のおすすめ情報を含めたメールを、自動配信する仕組みを構築した。結果として、メール配信を介した駅ビル商業施設の売上は、従来比で数十%増加したという。

顧客の興味関心に合わせたメール配信も興味深い。新幹線往復乗車券と交換、グリーン券との交換、ショッピングでの利用など、JRE POINTには、いくつかの利用方法がある。これを9種類に分類、顧客ごとに利用可能性を予測したうえで、可能性が高い上位3種を掲載したコンテンツを、メッセージとして配置した。

ここで渋谷氏は、CTRとCVRの上昇に加え、メルマガ会員の解約率の大幅な低下を、成果として強調した。短期的な成果もさることながら、顧客に不要なコンテンツを送り続け、今後の接点を失うリスクは、せっかくOne to oneマーケティングを始めた同社にとって無視できないのである。

顧客ごとの利用確率を予測してメルマガに組み込むイメージ図

また社内では、CDPを活用したセルフサービス型の分析基盤を整備し、現場の担当者が自らデータ活用できる環境づくりも進めている。Treasure Data CDPをBIツールと連携し、セグメント作成、施策のテストや検証、トレンド調査を行えるダッシュボードを構築。メールの配信においては、直感的な操作でセグメント作成などができるTreasure Data CDPのAudience Studioを活用し、SQLを記述することなくターゲットリストを抽出できるようにした。

さらに同社は、CDPに蓄積した顧客データを、Web広告に活用する外部企業向けサービス「JRE Ads」を提供している。顧客の移動・購買履歴データを、Google、Meta、LINEヤフー 、Xなどの広告プラットフォームと連携させることで、広告配信を効率化する仕組みだ。顧客の行動に基づいた精緻なターゲティングが可能で、すでに多様な業種の広告主に利用されている。

「例えば、平日の夜に新宿駅を利用する30代男性にのみレストランの新規オープンを告知したい、などの広告主の要望にも応えられる。新築マンションのWeb広告では、標準的なエリアターゲティングと比較してCPAを大幅に削減できた。」(渋谷氏)

新たなクラスタリング、精緻な解約予測を可能にする統計手法

セッションの終盤では、渋谷氏は統計手法を用いた、より詳細な顧客分析の事例にも踏み込んだ。

そのひとつが、JRE MALLのWebサイト上で実施したクラスタリングの事例だ。渋谷氏は、サイトの閲覧履歴データに基づく「ソフトクラスタリング」の手法を採用。通常のクラスタリングでは、ひとりの顧客を1つのクラスタに割り当てるが、ソフトクラスタリングでは顧客が複数のクラスタに属する確率を算出する。

ソフトクラスタリングのアルゴリズムには、「確率的潜在意味解析(pLSA)」を用いた。pLSAでは、顧客が購買した商品だけでなく、店舗も同時に参照されるため、顧客の嗜好や利用シーンといった文脈を踏まえた高い解像度のクラスタが構成される。なお、pLSAは主にテキスト分析の分野で用いられるが、今回は構造化データに適用している。

こうした分析を経て、渋谷氏らはJRE MALLの顧客を、4つのクラスタに分類した。クラスタ1は鉄道ファン、クラスタ2は日用品やふるさと納税のユーザー、クラスタ3はキャラクター(Suicaのペンギン)のファン、クラスタ4は食品や地元の特産品などを購買する顧客だ。顧客ごとに各クラスタへの所属確率を算出し、その合計が100%となるよう設計している。

JRE MALLのWebサイト側では、ランダム表示されていたトップページのポップアップバナーを、クラスタに応じて表示するなど、レコメンドを最適化した。それにより、特にクラスタ1とクラスタ3で、高いCTRを記録したという。

最後に渋谷氏は、医療統計の分野でよく用いられる「生存時間分析」の活用事例を示した。生存時間分析は、死亡、病気の再発など、特定のイベントが発生するまでの時間を統計的に分析する手法で、マーケティング分野でも応用が進んでいる。

渋谷氏は今回、生存分析によりJRE POINT会員の解約を予測した。一般的な予測モデルでも解約の有無を判別することは可能だが、各顧客が「いつ解約するか」まで予測できるのが生存分析のメリットだ。

顧客全体の生存曲線(会員登録からの日数でJRE POINT会員の継続確率を表示したもの)を算出したところ、入会後のある経過日数前後で解約リスクが急激に上昇することがわかった。一方、入会後一定期間経過前後では解約リスクが大きく低下し、会員を継続する確率が大幅に上昇する。

注)図の縦軸、横軸の数字(単位)は削除しております

渋谷氏はさらに、いくつかの変数を適用し、興味深い生存曲線を提示してくれた。例えば、入会手段をオンライン/オフラインで比較した場合、後者の会員のほうが、解約リスクが高いことがわかった。あるいは、ダイレクトメールの受信を許可した会員と許可していない会員を比較すると、後者のほうが解約リスクが低い。

こうした分析を踏まえ、特定の顧客について、入会から解約リスクが一定の確率に達する時期を予測したり、時系列での継続確率を予測することも可能だ。これにより、マーケターは顧客が実際に解約に至る前の段階で、その要因に応じた施策を講じ、継続利用につなげられる。「生存分析は様々なマーケティング戦略に有効だ」と渋谷氏は、その可能性に期待を寄せる。

このように、SuicaとJRE POINTにひも付く移動・購買データを分析しつつ、顧客理解を深めていくのが、JR東日本の顧客起点マーケティングだ。渋谷氏は、「Treasure Data CDPに蓄積される多様な顧客データを活用し、顧客中心のマーケティングに注力していく」と、さらなる変革への意欲を述べた。

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