株式会社ひろぎんホールディングス

ひろぎんホールディングスが取り組む、デジタルを起点にした顧客とのコミュニケーション

~顧客データを活用し、会えない顧客の解像度を上げる~
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デジタル化が進む中で、顧客とのリレーション(関係)の再構築を求められているのが地方銀行だ。これまで、店頭での接客や営業担当者の日常的な訪問は、地方銀行にとって大切な顧客接点だった。この接点を通じて、子どもの出産や家の購入といった、顧客のライフステージの変化をつかみ、サービスの提案につなげていた。しかし、昨今は顧客のデジタルチャネルの利用が進み、オンラインでの取引が一般になると、対面の接客は減少。このような中でどのように顧客との関係を作り、個々のニーズを踏まえた提案をしていけばいいのか。

その打ち手として、広島銀行を擁するひろぎんホールディングスは、顧客データを活用した、デジタルマーケティングを推進している。「Treasure Data CDP」を用いて、ウェブサイトの閲覧やアプリの利用といった行動データと、基幹システムの情報を一元化。顧客の解像度を上げて、一人ひとりに最適なメッセージを届ける。同社が目指すのは「これまで銀行員がリアルで行っていたお客さまの把握や接客をデジタルで再現すること」だという。

前編では、グループ営業戦略部 営業統括グループ長 堀井利英氏に、経営の観点から本取り組みの重要性を、後編では、実際にデジタルマーケティングに取り組む営業統括グループの谷本知春氏、樽本広樹氏、迫田隆二氏の3名にお話を伺った。

1
対面の接客が減る中、どのように顧客とコミュニケーションを取り、企業として成長するかが経営課題だった。
2
2023年7月にアプリ・インターネットバンキングをリニューアル。これに合わせて、顧客データを活用した デジタルマーケティングの環境を構築。
3
「Treasure Data CDP」の導入で、点ではなく面で、顧客を軸にしたアプローチを実現。
前編戦略としての顧客データ活用

直面していた経営課題に立ち向かう機運を生んだ「ホールディングス化」

広島を中心に、岡山、愛媛、山口の4県を主要エリアとするひろぎんホールディングス。同社は、この地域の発展に貢献していくにあたり、ある経営課題と近年向き合ってきた。同社執行役員であり、ホールディングス全体の営業戦略を策定するグループ営業戦略部 営業統括グループ長の堀井利英氏が説明する。
「これまでのような対面の顧客接点が減る中で、どのようにお客さまにアプローチし、ファンになっていただくのか。これが大きな経営課題でした。私たちが成長していくためには、一人一人のお客さまに何かしらのアプローチを行い、ファンを増やしていくことが必須です。しかし近年、銀行窓口に来られるお客さまは減少し、特に若年層はアプリやインターネットといったデジタル完結の取引を求められるケースが増えています。むしろそれがなければ選んでいただけません。お客さまとの関係構築の戦略を大きく見直す必要があったのです」(堀井氏)

グループ営業戦略部 営業統括グループ長 堀井利英氏

そこで、デジタル上の顧客接点や関係づくりを強化すべく、2023年7月にひろぎんアプリ・インターネットバンキングをリニューアル。これに合わせて、顧客データを活用したデジタルマーケティングの環境構築に踏み切り、「Treasure Data CDP」を導入した。まずは広島銀行の個人顧客を対象にデータ統合を行い、最終的にはひろぎん証券やひろぎんリースなど、ホールディングス横断で顧客を理解し、コミュニケーションすることを目指す。

「さまざまな情報を収集する中で、我々もデジタルマーケティング・顧客データ活用の領域に投資していかなければならないと考え、今回の取り組みを進めました」(堀井氏)

とはいえ、口座や取引情報を扱う勘定系システムも持つ銀行にとって、新たな仕組みを取り入れるのは簡単な決断ではない。その“後押し” になったのが、2020年10月のホールディングス化以降の組織改変だ。2021年10月に、デジタルマーケティングの組織も新たな体制にしたという。

「これまで各部門に散らばっていたデジタルマーケティングの人材を集め、新たなチームを立ち上げました。従来は商品・サービスやチャネルごとに分かれて戦略を立てていました。さらにアプリの開発部門とデータ分析の部門が分かれることもあったのです。しかしこれらを横断するチームを作ったことで、デジタル戦略や人材を部門ごとに最適化するのではなく、ホールディングス全体で考えられるようになりました。非金融も含めた一体でのデジタルマーケティングです」(堀井氏)

もし以前のままの組織だったら「今回の施策を進める機運は生まれなかったでしょう」と堀井氏。なぜなら同社が目指すのは、顧客の日常生活のあらゆるシーンを捉えて、デジタルでアプローチすること。それは各領域に閉じた組織体制では実現できない。グループ統合の新たなラインが立ち上がったことで、領域横断のデジタルマーケティングに舵を切れたといえる。

すでに顧客データの統合は行われており、これからその環境を活かした施策を進める。具体的な効果が出るのはこれからだが「今まで出来なかったことを実現できるという確信があります」と堀井氏は手応えを口にする。

「これまでの私たちとお客さまのコミュニケーションは、おもにお客さまの動きに合わせて行う、受身の要素が強かったと言えます。ご来店いただいた方に何かを提案する、退職金などで資産の増えた方のご相談に乗るなど。しかしデジタルを使えば、私たちからもっと能動的に多くのお客さまに提案することができます。お客さまのデータから生活や思考を分析し、最適な提案をいつでも行えるのです。限りなくOne to Oneに近いコミュニケーションといえるでしょう」(堀井氏)

デジタルによって、コミュニケーションの起点を銀行側から作り、顧客のロイヤリティを上げてファンを増やしていく。それが今回の施策で堀井氏の描く青写真だ。これまでの “点” でのアプローチから、“面” でのアプローチへの大きな変化を「Treasure Data CDP」が下支えすることにより、デジタル戦略の可能性が大きく広がったと言える。

お取引はほぼぜーんぶスマホで。ほぼすべての銀行取引がスマートフォンアプリで完結するひろぎんアプリ。残高・入出金明細照会、振替、カードローン、目的預金、口座開設、振込、投資信託、住所変更等諸手続き。
後編実際のデジタルマーケティングと顧客データの活用

デジタルマーケの現場が抱いた危機感「広島銀行を日常生活にどう組み込むか」

今回の施策につながった経営課題は、同ホールディングスのデジタルマーケティングに関わる人たちも強く感じていた。「広島銀行をお客さまの日常生活にどう組み込んでいくか、そこに注力しないと私たちの地元エリアでさえも将来厳しい状況になるのでは、という思いが根底にありました」と語るのは、デジタルビジネスを担当する同社営業統括グループの谷本知春氏だ。

グループ営業戦略部 営業統括グループ谷本知春氏

「近年は、店頭でお会いできないお客さまが勤労層を中心に増えています。実際に営業店への来店者数は減少しており、弊社の『ひろぎんアプリ』によってお客さまと接する機会の方が多くなりました。インターネットバンキングの取引も年々増加しており、間違いなく今後もこの傾向は続くでしょう」

以前は広島といえば広島銀行というように、自然に地域市民との関係性を築くことができていた。顧客接点は営業店がメインで、対面で会話をする中で顧客の近況や変化を汲み取り、提案につなげる。しかし「デジタル化が進むと同時に、オンラインバンキングが普及したことで、地場の金融機関の優位性は高くなく、特に若い方は対面よりネット上での取引が便利だと感じるのは間違いありません」と、谷本氏は率直に伝える。

顧客に会えなくなれば、会話からニーズを知るのは難しい。そうして状況にそぐわない提案をしてしまえば、銀行自体の印象が悪化する可能性もある。同じくデジタルビジネスを担当する営業統括グループの樽本広樹氏はこう説明する。

グループ営業戦略部 営業統括グループ樽本広樹氏

「焦点のずれた提案をしてしまえば、お客さまに拒絶されて関係が途切れるリスクもあります。そもそも会えないお客さまが増える中、広島銀行との関係が弱い状態で何かを提案しても響きにくいでしょう。金融機関の取引は毎日のように発生するものではありません。だからこそ的確にニーズをとらえなければならないのです。お客さまとお会いする機会が減る中で、いかに対面コミュニケーション以外の部分から情報を得られるかが我々の課題でした」
若い世代との接点は減っているが、一方で可能性も秘めている。というのも、広島銀行は地元民なら依然高いシェアがあり、20代も8割近くが口座を保有している。勤務先の振込口座に指定されるケースが多いためだ。

ただし、その口座で活発に取引されているとは言い切れず、口座はあるが顧客との関与が少ない状態にあった。その中で、接点の少ない顧客の解像度を上げて価値ある提案を行うにはどうすれば良いのか。うまくできれば、口座自体はあるので取引に発展する可能性は高い。そういった背景の中でデジタルマーケティングへ取り組むこととなった。

属性から取引、サイト閲覧履歴まで「顧客軸」でデータ分析が可能に

広島銀行がまず取り組んだのは2つ。まず、会えない中でも顧客を理解するために、上述のひろぎんアプリやインターネットバンキング、あるいはサイト閲覧などの各データを一元化し、“顧客軸” で総合的に分析できるようにしたこと。ここに「TreasureData CDP」が活用されている。さらに、そのデータ分析をもとにして、マーケティングオートメーション(MA)ツールで顧客とコミュニケーションを行う仕組みを導入。ひろぎんアプリへのメッセージ配信やレコメンド広告の表示などがその例となる。これらは2023年7月までに行われ、併せてひろぎんアプリやインターネットバンキングのリニューアルも実施された。

Treasure Data CDPとのデータ連携の仕組みを示す図。DWH(顧客情報・取引情報・契約情報)やアプリ・WEBサイトの行動ログ、アンケート情報などのデータがCDPに集約され、お客様データの統合や一元管理、セグメンテーション、ターゲットリストの作成が行われる。その後、マーケティングオートメーションを通じて、アプリでのコミュニケーションコンテンツ配信、メール、SMS、プッシュ配信、バナーやポップアップの表示など、アプリ、WEB、メール、SMSの各チャネルを通じてコミュニケーションに活用。

「この施策は短期的な収益を上げることより、当社グループのロイヤルカスタマーを作ることが主眼にあります。一元化した顧客データを分析することで、お客さまを深く理解でき、適切なタイミングでデジタル上でコミュニケーションすることにつながるでしょう。そのサイクルの中でファンになる、あるいは他の方に口コミで紹介していただけるような、ロイヤルカスタマーへとつなげていきたいのです」(樽本氏)
これまでも、銀行口座の取引履歴や顧客属性の情報については、一元管理する基幹システム(データウェアハウス)があった。しかし、ひろぎんアプリの利用履歴やサイトの閲覧履歴、インターネットバンキングの取引履歴といった“デジタル上の行動ログデータ” は別の仕組みで分散管理していたという。

「2つのデータを紐づけて分析するには、一度データウェアハウスからデータを取り出して、行動ログデータと照合する必要がありました。これらは手動で行わなければならず、特殊なスキルも必要だったのです。結果、お客さま軸で取引とアプリやサイトにまたがる行動を追ったり、それらのデータを集約したりする環境は十分でなく、またそのデータに応じて情報を発信するためのツールもありませんでした」(樽本氏)

現在は、「Treasure Data CDP」にデータウェアハウスの顧客情報と、アプリ・ホームページ・インターネットバンキングなどのログデータが蓄積され、CDPで顧客を分析して、メッセージを配信する指示を出す。そうして顧客に合わせたコンテンツがひろぎんアプリやSMS(ショートメッセージ)を通じて送られる仕組みとなっている。

「顧客データを活用した施策はこれまでもなかったわけではありません。しかし、ローンならローン担当、投資信託なら投資信託担当など、各部門が個別に分析して、単発的な施策を行っていました。お客さま軸で分析できていなかったので、あらゆるサービスの中で何がもっとも必要とされているか、総合的に見ることができていなかったのです。今回、顧客データが一元化され、各部門が同じデータ、それも統合されたデータを活用できるようになりました。これはお客さまの理解度の向上につながるでしょう」(樽本氏)

他行にもヒアリング、導入の決め手はセキュリティへの安心感

CDP(カスタマーデータプラットフォーム)のソリューションは、他社も提供しているが、その中でも「Treasure Data CDP」を選んだ理由に、セキュリティの高さが挙げられるという。

「金融機関ですから、重大な個人情報が含まれるデータを取り扱うことになります。そのお客さまのデータをどこに保管するかという点で、保管先が海外サーバーだったり、状況によってサーバーが変わったりするCDPのツールもありました。『Treasure DataCDP』はAWSの東京リージョンに保管することが決まっていたので、非常に心強かったですね。個人情報の同意の観点でも、国内サーバーに保管できるのはメリットになります」(樽本氏)

そのほか、他社の導入実績が十分にある点や、金融機関が多く導入している点も選定材料になったという。「ほかの銀行にもヒアリングを行い、その内容を参考にしました」と樽本氏は話す。

実際にシステムを構築していく際も、こだわったのはやはりセキュリティ面だ。マーケティング環境構築に携わった営業統括グループの迫田隆二氏が説明する。
「外部への情報漏洩リスクを下げるのはもちろん、内部的な不正リスクも厳重に対策しなければなりません。『Treasure DataCDP』は、社内におけるデータ閲覧やダウンロードの権限保有者を細かく設定できます。トレジャーデータの担当者と細かく議論しながら詰めていきました」

グループ営業戦略部 営業統括グループ迫田隆二氏

銀行のセキュリティ要件は厳しいため、迫田氏は実装されていないセキュリティ機能についても実装可能かどうか確認したことがあったという。「そういった要望に対しても、日本の担当者からアメリカのトレジャーデータ本社に問い合わせてもらい、手厚く対応していただけました」と話す。

もうひとつの理由は、デジタルマーケティングを内製化していきたいというニーズに合っていたからだ。

「デジタルマーケティティングでは、新しい機能を素早く使っていくことが重要です。環境の変化が早く、波に乗り遅れては効果が出ませんから。その中で機能を追加しにくいCDPは利用しづらいですし、かといって自由度が高すぎると、かえって時間と労力がかかりすぎる可能性もあります。その点、『Treasure Data CDP』はある程度の土台がありつつ、その上に内製で新機能を追加できるバランスの良さを感じていました。実際に現在のCDP環境も、その点を意識した作りにしています」(樽本氏)
まだ「Treasure Data CDP」を中心としたデジタルマーケティングの環境を構築して間もない段階だが、日に日にさまざまなデータが集まっており、これらを分析することで「今までは難しかったさまざまな打ち手が可能になるのではないでしょうか。私たちの期待感も増しています」と谷本氏。すでにひろぎんアプリでは、データ分析をもとに顧客の興味・関心や状況に合わせた金融情報を配信する機能が設けられている。

「お客さまの解像度を上げて、適切なアプローチができるのはもちろん、手動でデータ分析を行っていた頃よりもタイムリーに情報を届けることができます。興味・関心がホットなタイミングでコミュニケーションできるのは大きいですね」(樽本氏)
なお、これらのデータ分析は決してデジタルの施策に閉じるものではない。「分析したお客さまのデータを営業店に渡して、営業員の接客に役立てるなど、オフラインでも活用できます」と谷本氏は展望する。この施策を一層強化すべく、人材確保にも動いている。「Treasure Data CDP」の経験者やそのスキルを持つ人材の募集を積極的に進めているようだ。

「デジタル化が進んでも、金融機関のやることが大きく変わるわけではありません。これまでは営業員がお客さまのところに足を運び、コミュニケーションをしながらニーズや悩みを伺っていました。それを商品に落とし込んで提案していたといえます。同じことをデジタル上で再現するのがこの施策であり、引き続き進化させていきたいと思います」(谷本氏)

対面の接点が減少する中、どのように顧客の解像度を上げていくのか。鍵になるのがあらゆる顧客データを統合・分析することであり、その基盤としてTreasure Data CDPが使われた。方法はデジタルに変わっても、根底にある顧客を理解し、適切な提案をするという銀行の姿勢は変わらない。むしろそれを前進させるために、今回の施策があったのだ。

Treasure Data CDP事例集:金融・保険業界事例集

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