「日本一のメガネチェーン」へ。経営危機からの再建、16年連続の増収増益を経て、OWNDAYSは今、かつてないマーケティングの強化に取り組んでいる。必須となるデータ活用の中核として、2024年9月にTreasure Data CDPを導入。わずか3ヵ月で日本、その後の3ヵ月で台湾、タイの開発、実装を実現し、今まさに多様な施策を実行するフェーズにある。
経営に近い立場でグローバルECを統括する阿部滋輝氏、マーケティング部を立ち上げた鳥居長英氏、マーケティング実務としてCDPを活用する旗手梨香子氏に、CDP導入の経緯と運用の課題、さらにAIとの組み合わせを含む展望を聞いた。
また、同社のスピード実装は、トレジャーデータのパートナーである電通デジタルのサポートなしでは語れない。同社より舩津浩介氏、齊藤亘平氏にも、議論に参加していただいた。
(左から)
株式会社オンデーズ マーケティング部CRMスペシャリスト 旗手梨香子氏
株式会社オンデーズ マーケティング部部長 鳥居長英氏
株式会社オンデーズ グローバルEC部本部長 阿部滋輝氏
株式会社電通デジタル データ&エンゲージメント部門 エンゲージメントソリューション事業部カスタマーエンゲージメントグループ 舩津浩介氏
株式会社電通デジタル データ&エンゲージメント部門 エンゲージメントソリューション事業部マーケティングプラットフォームグループ 齊藤亘平氏
LINEを通したCRMにTreasure Data CDPを活用
OWNDAYSは日本に約270店舗、13カ国合わせて約600店舗を展開するメガネチェーン。商品の開発・製造から販売まで、自社で一貫するSPA型のビジネスモデルだ。年間200本のペースで新作フレームをリリースしており、現在の商品点数は1000種類を超える。
「国内のSPA型メガネチェーンの中では、店舗展開で遅れを取ってきた」と鳥居氏。
OWNDAYSには、2008年に現会長の田中修治氏が経営を引き継ぎ、再建に乗り出した経緯がある。しかし、その時点で既存の商業施設にはライバルが進出しており、国内の出店数は頭打ちに。早期に海外へ進出し、ビジネスを拡大する戦略を取ってきた。
その後、16年間増収増益を続け、「改めて国内のマーケットで戦えるようになった」と鳥居氏。日本一のブランドになるために、数年前からヘッドクォーターのマーケティング機能を強化している。そんななかで、主にCRMを充実させるため、電通デジタルのサポートを受けて、Treasure Data CDPを導入した。

メガネ業界は「半医半商」と表現される。メガネは「アイウェア」と呼ばれるファッションアイテムであると同時に、本来は視力を矯正する医療機器だ。顧客のリピート率が非常に高いのが特徴だ。
顧客が店舗を訪れ、一度視力測定すれば顧客情報として保存されるし、適切なフィッティング技術を経験すれば信頼は高まる。あちこちブランドを乗り換えるより、自分を知ってくれている店舗に相談するほうが、買いやすいのだ。
来店時だけでなく、日常のコミュニケーションを充実させれば、サービスの質は向上し、リピート率、購入頻度を高めることもできる。OWNDAYSでは、店舗やECの顧客にLINE登録を促しており、LINEを通したきめ細かいコミュニケーションが、CDP導入の狙いとなった。
阿部氏は、「従来は、来店後に一定期間クーポンをお送りするといった、限られた施策に偏っていた。Treasure Data CDPによって、多様なセグメントでコミュニケーションがとれるようになる」と期待を示す。過去に特定のブランドのフレームを購買、子どもがいる、来店頻度が高いなど、さまざまな属性で顧客をとらえ、キャンペーンを実施することもできる。

鳥居氏は、「顧客データは持っていたが、使える人が限られていた」と、運用面の課題を挙げる。従来のデータベースには、IT部門しかアクセスできなかった。マーケティングやECなど事業部門がデータ活用する際には、IT部門への依頼が必要だった。Treasure Data CDPを導入し、マーケターが直接データにアクセスできるようになれば、スピーディに施策を実行し、改善のサイクルを回せるはずだ。
事実、施策の多様性とスピードは格段に向上した。
現場で実務を担う旗手氏は、導入後の成果を次のように振り返る。
「お客様へのLINE配信は大きく2つのパターンがある。ひとつは、キャンペーンや新店舗の開店など、ブランド側のお知らせを発信するスポット配信。もうひとつは、来店後のリマインドクーポンなど、顧客行動が起点となるトリガー配信。前者(スポット配信)の実行時は、自分の手元でセグメントを切って、素早く配信できるようになった」。

IT部門に依頼していた従来は、施策までに平均1週間かかっていたが、現在では最短1日で実行できるという。
後者のトリガー配信は、購入後のフォロー配信と、2〜3年来店のない休眠顧客へのクーポン配信を行う。
前述のとおり、メガネは身につける医療機器であり、かけ心地やレンズの見え方のチェック、アフターサービスの案内など、購入後の丁寧なフォローは極めて重要。顧客満足に大きく影響する施策だ。
休眠顧客への配信は、2〜3年前に最終購入した顧客に対して、クーポンとおすすめ商品、買い替えを提案する記事リンクなどを配信するもの。「(全顧客を対象とする)通常のクーポン配信に対し、休眠顧客配信のCVRは1.8倍という成果が出た」と旗手氏は手応えを示す。
通常2年ほどの購買サイクルに合わせてメッセージを送ったことで、顧客が買い替えを意識したものと推測できる。柔軟なセグメンテーションと素早い施策で、ニーズの高まるタイミングを見出した。データをもとに顧客理解を深めるCDP活用の好例と言えるだろう。
スピード実装を実現した技術サポートとは
Treasure Data CDPの導入から3ヵ月で日本での構築を完了し、スピーディに運用を進めてきたOWNDAYS。その裏には、電通デジタルの支援がある。
「すでに電通グループとは、広告宣伝で共に取り組んでいた」という鳥居氏。同じマーケティング領域のCDP活用で、グループのシナジーには期待があった。電通デジタルとしても、グループ内の広告宣伝チームとの連携は取りやすい。全体のマーケティング戦略を理解したうえで、CDPの設計に落とし込めるメリットがあった。
鳥居氏は加えて、「レスポンスが早く、アジリティへの信頼性が高かった」と、電通デジタルへの印象を語る。Treasure Data CDPの導入が決まり、マーケターとしてやりたいことのイメージは広がるが、構築・運用の作業に落とし込むのは簡単ではない。「代理店として、トレジャーデータとの交渉にもフレキシブルに動いてくれた」(鳥居氏)と評価する。

実務を担う旗手氏は、「技術面でのサポートに信頼を置いている」と語る。旗手氏はじめマーケティングチームは、プログラミングなど技術的な専門知識は持たない。困っていることがあれば相談し、すぐにサポートを受けられる環境は心強かった。
また、「導入が決まって困ったのが、施策の優先順位付けだった。思いつく施策を列挙すると、見込める効果と期間をマトリクスでわかりやすく整理してくれた」と旗手氏は振り返る。単にシステムを実装するだけでなく、実際の運用とROIを見込んだ手厚いサポートが、スムーズな導入にもつながった。
こうした評価を受け、電通デジタルの舩津氏は「OWNDAYS様の判断が非常に速かった。これほどスムーズに構築が進むことは珍しい」と返す。上長や役員の承認を何日も待つような場面がほとんどなく、部門リーダーの判断でプロジェクトを前に進めることができた。稀に見るスピード実装は、OWNDAYSの企業風土と、電通デジタルのサポートがうまく噛み合った結果と言えるだろう。

グローバルでデータを共有するメリット
2025年には、タイと台湾でTreasure Data CDPの開発をはじめたOWNDAYS。「これまではCDP活用のベースを作るステージ。日本でうまくいった施策を、海外にも適用していく」(阿部氏)。「その次のステージでは、各エリアの市場環境に合わせて、それぞれの施策を実行したい。顧客コミュニケーションのツール、内容、頻度、すべてエリアにより異なる。将来的には、海外でうまくいった施策を、日本に適用することもあり得る」と展望する。
鳥居氏はさらに掘り下げて、「Treasure Data CDPによって、顧客データの全体像が把握しやすくなった。各エリアのメンバーと、アップルトゥアップル(条件をそろえて比較)で対話できるのが大きい」と語る。
リピート促進が重要なビジネスモデルは前述の通り。そのために、休眠顧客への対策が必要なのか、アクティブ顧客の購入頻度を上げるべきなのか、最適な具体策は顧客の状況により異なる。Treasure Data CDPで同じ顧客データを参照しながら、各エリアのマーケターと論理的な会話ができるようになると、鳥居氏は期待を込める。
また、CDPの海外展開においても、電通デジタルが果たす役割は大きい。「グローバル展開を進めるうえで、日本からでは見えないローカルの事情もある。どのように実装していくか、現地の状況を踏まえて、丁寧にサポートしてくれる」と鳥居氏。「開発から現地での施策まで、アドバイスをもらえる。現地のマーケティングチームとも直接コンタクトをとり、サポートしてくれた」と、阿部氏の信頼も厚い。
店舗売上メインのビジネスでECができること
グローバル展開と同様に、今後の広がりが期待されるのが、ECおよびOMO領域でのCDP活用だ。現状、OWNDAYSのメインチャネルは店舗だが、「世の中全体の流れとしてはECにシフトしている」と阿部氏は重要性を強調する。
視力測定やフィッティングが必要になる商品特性上、オンラインのみでサービス、購買が完結しづらいのは事実。一方で、ECでは10カ月〜1年に1本のペースで購入するユーザーが多い。およそ2年で買い替える店舗の顧客と比べ、エンゲージメントが高い上得意なのだ。
また、ECサイトで購買まで至らずとも、LINE登録をしたり、商品を調べて来店するケースも増加が見込まれる。オンライン顧客をもてなすことは、売上の数字以上にサービス向上に影響する。
さらに、アプリのバーチャル試着を通して、顔の形や大きさ、髪色といった顧客データを取得することも将来可能になるかもしれない。似合うメガネを提案するなど、パーソナライズされたコミュニケーションも有効。このあたりは、CDPと非常に相性がよい施策と言えるだろう。
日々のきめ細かいコミュニケーションに、Treasure Data CDPが果たす役割は大きい。電通デジタル齊藤氏は、トレジャーデータが進めるマーテック機能の統合に期待を示す。

(株式会社電通デジタル データ&エンゲージメント部門 エンゲージメントソリューション事業部 マーケティングプラットフォームグループ齊藤氏)。
オンライン広告でのCDP活用も視野に入る。プラットフォームのサードパーティデータと、CDPのファーストパーティデータを組み合わせることで、広告配信のより詳細なターゲティングが可能になる。
マーケター3人はCDP×AIをどうみるか
最後に、今後のデータ活用、あるいはマーケティング全般を左右するAIについて、それぞれの立場から展望を聞いた。
阿部氏は「人間には見つけられないおもしろいセグメントを、AIが見つけられるはず」と指摘。性年代や購買履歴などによるセグメンテーションは、人間のマーケターでも容易にできる。しかし、「ECサイトからLINE登録して、特定のコンテンツを見た顧客は、購入に至る可能性が高い」といった複雑な分析は、人間よりAIに分がある。
コミュニケーションの実行フェーズでも、メッセージの内容やフォローのタイミングをAIに提案させるなど、効果的なカスタマージャーニーを設計できるだろう。人間ではぼう大な時間のかかる作業をAIに任せることで、サービス向上と業務効率化が両立する。
鳥居氏は「AIに、マーケターの専属コンシェルジュになってほしい」と希望を語る。新商品のリリースや販促キャンペーンなどスポット配信の際、一人でも多くの顧客からレスポンスがほしいマーケターは、どうしてもターゲットを広めに取ってしてしまう。しかし、関心の低い顧客にとっては、頻繁なメッセージがストレスになっているかもしれない。
AIがそんな状況を予測し、「送りすぎでは?」とアラートを鳴らしてくれたら、少ないリソースで戦う現場のマーケターの大きな力になるはずだ。
旗手氏は、今後のマーケティングの課題を「マイクロセグメントへのメッセージ配信」と語る。特に、購買や登録、コンテンツへのアクセスといった、顧客の行動を起点とするトリガー配信を充実させる考えだ。顧客の興味関心に合わせたコミュニケーションで、阿部氏や鳥居氏がいうようなAIのサポートは、強力な武器となる。
また、旗手氏は自身の経験から、「顧客像の教師」としての役割を、AIに期待する。メガネ業界の経験がなかった旗手氏は、入社当初、顧客の属性や気持ちの理解に苦労したという。
広い業界ではないので、今後も他業界からマーケターが入社し、多くは旗手氏と同じような経験をするはず。AIが自社の顧客像を示してくれれば、よりスムーズに実務に入ることができる。
同社と同じように限られたリソースで、顧客コミュニケーションに取り組む企業は少なくないだろう。CDPとAIに対する三者三様の視点は、そんなマーケターにとって貴重な示唆を含んでいる。
テクノロジーを活かすチームの力
今後のマーケティングに、CDP、AIといったテクノロジーが必要なことは間違いない。しかし、その力を最大限に引き出すのは、人と組織の連帯だということを、OWNDAYSの取り組みは教えてくれる。
その点で、幅広い知見を持ち、サービス品質も高い電通デジタルは、トレジャーデータにとっても非常に重要なパートナーだ。パートナーとベンダー、それぞれの役割を果たすことで、ユーザー企業のビジネスの成長に貢献していく。