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「データは資産」プーマジャパンが挑む、CDP活用とLTV向上による組織変革

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1948年にドイツで創設されたPUMAは、スポーツブランドとして広く親しまれている。サッカーをはじめ、バスケットボール、ゴルフ、ランニングなど多様なカテゴリーを展開するとともに、スポーツスタイルやライフスタイルブランドとしてシューズやアパレルにも注力している。

プーマジャパンでは2020年、Treasure Data CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム、以下CDP)を導入した。これは各国のPUMAに先駆け、世界で最初にCDPを導入した事例となった。その導入の背景にあったのは、ECと直営店を横断してデータを蓄積・活用できる「顧客データの統合」という課題だ。

現在では、ECはもちろん、直営店舗を訪れる顧客、ECと店舗などチャネルを横断する顧客に対して、カスタマージャーニーを踏まえたアプローチを展開している。導入当初から掲げていた「データは資産」という理念は、着実に具現化されつつある。

今回は、CDPの活用方法とその成果について、Eコマース本部長の田伏菜穂子氏と、同本部マネージャーの小牧正幸氏に話を聞いた。

店舗もECも、ひとつの顧客体験に
店舗とECのデータ統合で一貫したジャーニーを実現
広告効果が劇的改善
高精度なセグメントで新規獲得のROAS・CPAがリタゲ並みに
意思決定を、CDPのデータが後押し
組織変革とLTV向上を同時に叶える、データドリブン経営へ

プーマ ジャパン株式会社
Eコマース本部長 田伏 菜穂子氏
Eコマース本部 マネージャー 小牧 正幸氏

「データは資産」との考えで、2020年にCDP導入

現在、プーマ ジャパンの直販部門が担当している購買チャネルは、EC、定価販売の直営店舗、アウトレット販売の直営店舗の3つである。顧客がどのチャネルを訪れても、一元管理された顧客IDにより購入データなどを蓄積できる体制が整っている。

今回、話を伺った田伏氏と小牧氏が所属するEコマース本部は、2019年に立ち上げられた。もっとも、ECの顧客だけを見ていればよいわけではない。ECか店舗かにかかわらず、ブランド全体として「最適なカスタマージャーニー」の構築を重視している。

「チャネルの違いはあくまで接点の違いにすぎないため、顧客が購入しやすいよう、ブランド全体で戦略を策定しています」(田伏氏)

CDPを導入したのは、Eコマース本部設立の翌年2020年。導入前は、顧客データの多くを同本部が管理するメールシステムで保有していた。しかし、多くの顧客がメールから店舗を訪れ、実際に試し履きなどを行っていた一方で、店舗側には顧客データを取得する仕組みが整っていなかった。

例えば、店舗でイベントを実施する際も、告知メール経由での来店数や購入数が把握できず、メール施策の効果測定が困難であった。オンライン施策を通じて店舗への送客を図りたいという意図もあり、チャネルを横断してデータを統合的に管理したいという課題が顕在化した。

「データは資産」という考え方も、早期のCDP導入を後押しした要素である。当時について田伏氏は「将来的なデータ量の増加を見据えると、顧客とブランドとの接点を統合し、活用することが不可欠でした。蓄積されたデータがブランドの大きな資産になると考えました」と振り返る。

また、データの質にも注目していたという。小牧氏は「当時からファーストパーティーデータの重要性が徐々に指摘され始めていました。それまで広告配信は主にリターゲティングが中心だったため、クッキーレス社会へ対応しなければいけないという危機感もありました」と語る。

アクションにつながることと、サポート力が強みに

各国のPUMAに先駆け、日本が統合的なデータ活用に乗り出した。そのため、グローバルにはナレッジが存在せず、「日本がパイロットモデルとして取り組んできた部分が大きい」と田伏氏は語る。

田伏氏らが複数のシステム候補の中から選定したのが、Treasure Data CDPだ。システム選定にあたって、特に重視したポイントは2点あった。

  1. データを蓄積するだけでなく、確実にアクションへつなげられること

    求めていたのは、さまざまな種類のコネクタを有し、多様な広告プラットフォームと連携できる柔軟なシステムだった。新規顧客の獲得やリピーター維持を促進する上で、こうした機能が不可欠であるためだ。Treasure Data CDPは、多様な広告プラットフォームとの連携に対応しており、この要件を満たしていたことが大きな決め手となった。

  2. 導入前後を通じた手厚いサポート体制

    導入前の懸念解消はもちろん、導入後の運用においてSQLを書く場面も想定していたため、効果を最大化するためのサポート体制も必要だった。「その点、事前の知識共有に加え、導入後も定例会を設けるなど、サポート力が非常に高かったです」(小牧氏)

    現在は、週1回の定例会に加え、チャットなどテキストベースでも頻繁にやり取りを行っている。操作方法の支援にとどまらず、自社のビジネスを深く理解した上で、具体的なアクション提案が行われている点も高く評価しているという。

    「ちょっとした問い合わせでも半日から1日とタイムラグが生じると作業が止まってしまいます。その点、トレジャーデータの担当者のレスポンスは他社と比べて圧倒的に速く、しかもデータ活用の具体的なアイデアまで踏み込んで提案してもらえるので、非常に助かっています」(田伏氏)

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Eコマース本部長 田伏 菜穂子氏

次に購入可能性の高い商品をCDPで精緻に予測

CDP導入に合わせてWebサイトも改修し、前述のECと店舗を横断する顧客IDの一元管理を実現した。現在は、ECと店舗をまたいで行動する顧客をデータで捉え、個々の顧客に最適なカスタマージャーニーを描いて取り組んでいる。

具体的には、Treasure Data CDPに搭載されている機能「オーディエンススタジオ」を以下の手順で活用している。

  1. 一元管理された顧客IDをもとに、Webサイト上のアクセスログを取得・分析
  2. 分析結果から仮説を立て、ユーザーを細かくセグメント
  3. 各セグメントに応じて、広告配信やメールマガジンによるアプローチを実施

小牧氏は、このセグメント作成について「数えきれないほど試行錯誤した」と語る。現在は、約20の主要なセグメントを管理しており、さらに「LTV(顧客生涯価値)が高い顧客」や「その顧客に類似する層」、「LTVが高くない顧客」など、細かく分類したサブセグメントも追跡している。これらすべてを合わせると、管理しているセグメント数は約100に達しているという。

「最近の取り組み例としては、人気シューズ『スピードキャットOG』を購入した顧客に対し、次に推奨すべき商品をCDPで予測して、シナリオを設計しています。特に若いお客様に人気があり、メール開封のレスポンスが速く、開封率も高い傾向があります」(小牧氏)

当然、効果が低いセグメントは適宜削除し、常に最適化を図っている。「商品や施策によって最適なセグメントは異なるため、都度、判断しています」と小牧氏は説明する。例えば、注力カテゴリーのひとつであるランニングシューズに関しては、プロ向けからカジュアルな日常用まで商品ラインアップが広範囲にわたる。そのため、来訪顧客のさらなる細かいセグメント化に取り組んでいく考えだ。

プーマ ジャパン株式会社
Eコマース本部 マネージャー 小牧 正幸氏

顧客のLTV向上へ、店舗とECの連携が加速

CDPによる分析から得られた知見や示唆は、店舗にも積極的に共有している。たとえば、どの店舗でどの顧客がどのような商品を購入したか、さらに店舗とECで顧客がどの程度の割合で買い物をしているか、といった情報である。こうしたデータを踏まえ、CRM施策においては、F1(初回購入者)からF2(2回目購入者)への転換促進や、よりシームレスな購買体験の提供に生かしている。

一方で、店舗側からの情報共有も活発になっている。小牧氏は、「店舗とECで、それぞれ新規獲得の目標を話し合う場が増えました。その一環で、店舗のオペレーションチームから、購入時に顧客IDのバーコードを提示してくださったお客様の数を教えてもらうなど、細かなデータのやり取りも行っています。こうした連携によって、お客様の動線をより細かく把握できるようになってきました」と語る。

正確なデータ取得が進んだことで、「ECユーザーは店舗では買わない」という先入観が覆される場面も出てきた。例えば、「店舗のみで購入する顧客」、「ECのみで購入する顧客」、そして「店舗とECの両方で購入する顧客」の年間購入額を比較できるようになった。こうした情報共有により、ブランド全体で購入数や顧客数の増加を目指し、相互連携を前提とした施策を展開できるようになっている。「店舗連携では、かなりポジティブな成果が出ています」と小牧氏は手応えを語る。

田伏氏も、チャネルの壁を超えて顧客のLTV(顧客生涯価値)向上に向けた取り組みが進んでいると続ける。「重要なのは、単にいくら、どこで売り上げたかではありません。一人ひとりのお客様のカスタマージャーニーを正しく捉え、店舗とECの両方でLTVを向上させるにはどうすればよいかをお互いに模索しながら推進することです」(田伏氏)

新規獲得のCPAとROASがリターゲティング並みに

CDP導入の背景には、クッキーレス社会への対応もあったというプーマ ジャパン。では現在、CDPを活用し、どのように広告配信を行っているのだろうか。配信先プラットフォームの中心はGoogleとMetaであり、加えてCriteoも活用している。

まず、CDPを用いて全体のセグメンテーション分析を実施し、アプローチしたいユーザーや、既存顧客に類似するユーザーを特定。そのうえで、それぞれのセグメントに対して広告配信を行っている。

その結果、新規獲得におけるボリューム、CPA(顧客獲得単価)、ROAS(広告費用対効果)は、一度サイトを訪問したユーザーを対象とするリターゲティング広告とほぼ変わらない水準を維持できているという。「高い広告効果が生み出せるようになってきていると実感しています」と小牧氏。

田伏氏も続ける。「5年前はまったくROASが上がりませんでした。CDP導入以降、だいぶ進化してきていると感じます」。その背景には、やはりデータ量が着実に蓄積されてきたことがある。ターゲティングが難しい時代にあっても、CDPを活用することで目的を達成している。

CDPのデータを起点に、組織が変わり始めている

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データ活用の広がりは、Eコマース本部にとどまらない。CDPのデータを前提に、ブランドマーケティングチームやバイイングチームなど、他部門におけるディスカッションも展開されるようになってきた。組織全体で、意思決定の基盤が変わりつつある。

「データを見る機会が本当に増えました。データに基づいてビジネス判断を行い、正しいアクションが取れていることが、CDP導入による最大のメリットです。さらに、店舗や各部門とも分析結果を共有し、活用してもらえるようになったことで、データ活用を全社に広げていきたいと考えています」(田伏氏)

今後の展望について、小牧氏は「さらにLTVを引き上げていくこと」と語る。ECに比べ、店頭での接客はオペレーションの負荷が大きいことから、CDPを活用し、オンラインとオフライン双方の接客体験を総合的に高める考えだ。

また、田伏氏はAIの活用にも期待を寄せる。「CDP内のAI機能を活用することで、社内の分析人材の生産性が大きく向上しています。SQLを手書きせずに済む領域が増えており、今後さらに加速すれば、意思決定のスピードも一段と高められるはずです。最終的には、人に相談するように自然に話しかけるだけで分析ができる世界を期待しています」(田伏氏)

幅広い顧客層と商品群を抱えるプーマ ジャパン。CDPを通じて各セグメントに対して的確なアプローチを実現し、その成果が事業成長と組織変革にまで広がりつつある姿が鮮明になってきている。

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