「@cosme(アットコスメ)」や店舗・ECから得られる膨大なデータを活用し、コスメ・美容ブランド向けのコンサルティングを展開しているアイスタイルデータコンサルティング。商品クチコミや顧客情報、購買履歴など、扱うデータは多岐にわたる。
これらのデータを統合・活用する基盤として導入したのがトレジャーデータCDPだ。さらに、その価値を引き出すため、DXコンサルティング事業を行うハイブアイキューと連携し、データ抽出や分析の次アクションを提案できるAIエージェントを構築した。その取り組みと成果に迫る。
エンジニアなしでデータを扱えるようにしたい
アイスタイルデータコンサルティングがブランド向けのコンサルティング事業に用いるデータは、アイスタイルが運営する@cosmeのメディアや実店舗、ECから取得・蓄積している。
特徴的なのは、メディアから集まる定性データだ。さまざまな商品に対するクチコミや使用感の評価、本音、美容の悩みなどが2300万件ほど蓄積されている。同社では、これにユーザーの購買行動データなどを掛け合わせて戦略的な示唆を見出し、クライアントのブランドに、マーケティング支援や新商品の開発支援といった形で提供している。
しかし、データがあまりにも膨大であることから、次のような課題が生まれていた。
- データがうまく整理できず、命名ルールも煩雑で、欲しいデータが見つからない
- IDには紐づいているものの、異なるチャネルのデータの統合や分析が難しい
- データ抽出にはSQLが必要で、エンジニアに依頼しなければならなかったため、時間がかかる
そのため同社は、非エンジニアのコンサルタントでもデータを扱える体制を目指し、トレジャーデータCDPを導入した。

一方で、エンジニアのサポートなしに日常業務で使いこなすには、もう一段の仕組みづくりが必要だった。そこで、ハイブアイキューとともに取り組んだのが、トレジャーデータのAIエージェントファウンドリーを活用したAIエージェントの開発だ。アイスタイルデータコンサルティングの押野卓也氏は次のように振り返る。
「生成AIであれば、『必要なデータは何か』を自然言語で指示するだけで取得できる環境を構築できます。さらに、抽出したデータの着眼点や次に取るべき分析アクションまで示唆が得られるのではないかと考えました」(押野氏)

誤回答ばかり?AIエージェント開発の苦労
ハイブアイキューと連携し、分析用と施策実行用の2種類のAIエージェントを開発した。

一つは、マーケティング課題の整理や市場分析を支援する高度分析向けのLLM(大規模言語モデル)。もう一つは、施策立案から実行、効果検証までを支援する施策実行向けのLLMだ。
特に後者には、顧客データをもとにターゲット条件を自動生成する機能を実装。従来は専門知識が必要だったセグメント設計を効率化し、ユーザー拡大を後押しする仕組みになると考えた。
しかし、その開発では、さまざまな課題や苦労に直面した。開発初期の段階では、入力したプロンプトの条件が無視される、LLMが依頼文を拡大解釈する、存在するはずのデータが「ない」と返される、同じ依頼文なのに毎回異なる回答が返ってくるなど、さまざまな課題があった。
その後も、月間数億レコードに及ぶアクセスデータをどのように整理・管理するか、名称が近くても定義や取り扱いが異なるデータをAIに正確に理解させるにはどう設計するかなど、検討すべき論点は多岐にわたった。
また、AIエージェントファウンドリーにおいても、上限9,000文字のシステムプロンプト内に最適な設計を落とし込むため、綿密な設計とチューニングを重ねていった。

具体的には以下のような調整が行われた。
高度分析向けのAIエージェントでは、既存環境の棚卸しからスタート。トレジャーデータCDPに蓄積されていたデータを基にデータ基盤(データマート)を構築し、LLMに実装した。しかし、この初期版(α版)となるVer.1.0は実務にそのまま活用するには精度面で課題が残った。

「たとえば『あるカテゴリーの商品の売上ランキングを出して』と指示すると、それらしいデータは出てきます。ただ、日々データを見ているコンサルタントの感覚とはどこかずれていたのです」(押野氏)
そこで3ヵ月をかけ、システムプロンプトの磨き込みとデータマートの再設計を実施。2〜3週ごとに改修を重ね、Ver.6.0まで進化させた。
「毎週、自分たちが持っているデータとAIから出てくるデータを突き合わせ、実践に耐えうるかを検証していました。このあたりから、ようやく事業に使えるという手応えを感じ始めました」(押野氏)
その後、実際のコンサルティング現場で運用を開始する。フィードバックを反映しながら改良を続け、最終的にVer.9.0へと到達。ようやく実務に根づくAIエージェントが完成した。

回答の質を向上させた2つのポイント
ハイブアイキュー小暮和基氏によれば、高度分析向け/施策実行実行向けどちらにも共通する大きく2つのターニングポイントがあったという。
1つは、プロンプト内のルールの整備だ。誤答が頻発していた原因は、プロンプト内のルール同士で競合や矛盾が発生していたことだった。AIエージェントへの指示は自然言語で行われる。 関連するルールが2つ以上あると、それらが衝突していたというわけだ。さらにLLMには、必ず何かを答えようとするバイアスがあるため、ルールが衝突したときにどういう行動を取るかという判断は、LLMに委ねられる。その結果、誤答が生まれてしまう。
そこで、プロンプト内のルールに優先順位を付け、実際に衝突や矛盾が起こった際に解決できるプロトコルを用意するといった対策を行い、回答の質を向上させた。
もう1つは、システムプロンプトに企業ドメインに関する知識だけでなく、役割・手順・定義・検証・出力基準をすべて一体化して書き込む運用ルールをつくったことだ。特に、手順を厚くつくり込み、あいまいさを残さないようにして誤答や誤集計を避け、再現性やスピードを担保できるようにした。

「AIエージェントへの依頼文はフリースタイルで、幅広く受け付けられるようにする一方で、誰が依頼しても同じ答えに近づけるために、ガードレールを設定したイメージです。それによって、LLMの思い付きの集計になっていたところが、再現可能な分析に昇華できました」(小暮氏)

完成したAIエージェントは、ユーザーが開始ボタンを押下すると、エージェント内部でサブエージェントを呼び出し、メインエージェントと統合。統合エージェントがセットアップできたらユーザーは依頼文を入力できるようになり、要件チェックリストの起票やデータ可用性点検、抽出設計、検算、整合性チェック、レビューを経て、最終的な出力に至るというワークフローとなっている。
「たとえば、『Sカテゴリーにおける直近1年の売上ランキングトップを教えてください』と依頼すると、集計したランキングと一緒にいろいろな考察を返してくれます。こういう分析をしてみたらというヒントも提示してくれるので、業務の効率化や事業の推進スピードが向上しました」(押野氏)
結果的に、エンジニアがいなくても高度な分析ができるという当初の目標が実現でき、「少数のバックエンドで回せていることに非常に満足しています」と押野氏。コンサルタント業務では欲しいデータをLLMに依頼し、その待ち時間に他の仕事をして、データが出てきたら分析に戻るといった効率的なサイクルができているという。

ほかにも、商品同士の相性やそれらがどのような使い方をされているのか、クチコミやVoC(Voice of Customer)ではどのような文脈が強いか、テキストマイニングしてほしいといった依頼に応えられるようになっている。
「私たちは膨大なクチコミを持っているので、そうした定性データからどのように、何を読み解くかというのは、大きな課題でした。それがAIエージェントによって簡単にできるようになったことが一番の衝撃でした」(押野氏)
この成功を聞き、他の事業部からもAIエージェントへの興味が広がっているという。今後は、ブランドというBtoB向けの事業だけでなく、@cosmeのメディアや店舗、ECを利用するユーザー向けにもAIエージェントを活用したいと考えている。




