ビジネス全般でAI活用が進むなか、今、注目を集めているのが「AIエージェント」だ。人の作業を自律的に代替し、使い方次第ではビジネスに大きなインパクトをもたらす。
トレジャーデータでは、CDPと連携して多様なAIエージェントを構築できる「AIエージェントファウンドリー」を提供している。導入を進めるWOWOWコミュニケーションズに、実際の活用法と現場での手応えを聞いた。
コンサルタントがデータを直接抽出できる環境を
WOWOWコミュニケーションズは、その名の通りBS9チャンネルを運営するWOWOWのグループ企業。Treasure Data CDPを用いたデータ分析・活用、およびデジタル広告の運用など、放送事業のマーケティングを担う。
同時に、その知見をグループ外へ広げ、企業のCDP構築やデータマーケティング支援も行う。「売上の割合は5割ずつくらい」(鈴木氏)と、親会社のマーケティング部門であると同時に、外部に対するコンサルティング企業の顔も持つ。
そんな同社が現在注力しているのが、VOC分析だ。WOWOWでは「WOWOWビューワーズボイス」というファン組織を運営し、月2回のアンケート調査を実施している。毎回3000〜4000件集まる回答を分析し、ユーザーの反応を継続的にチェックしたり、直接聞いた意見をマーケティング等の施策に反映させる狙いだ。WOWOWコミュニケーションズは、貴重なアセットであるアンケートデータをTreasure Data CDPに格納し、生成AIをかけ合わせることで、VOC分析の高度化・効率化を図っている。

鈴木氏らがまず行ったのは、コンサルタントが直接アンケートデータにアクセスし、AIと対話形式で分析できる環境の構築だ。従来、コンサルタントはTreasure Data CDPからのデータ抽出作業を、SQLを作成できるデータエンジニアに依頼していた。その過程で、認識や意図のズレからくる手戻りなど、双方のやりとりが多発しており、エンジニアのリソースを圧迫していたという。人材採用が困難な昨今の状況で、エンジニアの工数削減は大きな課題だ。
また、施策のスピードアップが求められる中で、データ抽出までの時間短縮も課題となっていた。従来は、コンサルタントが分析を依頼し、最終的にWOWOWの事業部門やクライアントに施策を提案するまで、2週間程度かかるケースも。生成AIの活用により、このプロセスを最短1日まで短縮できると、鈴木氏は見込んでいる。

肝心なのは、AIエージェントが行うデータ抽出の精度だ。実際にコンサルタントが利用したところ「数多くの案を出してもらえるので、豊富なヒントが得られる。(一つひとつの)精度も高い」と、鈴木氏は手応えを感じている。
AIエージェントを組み合わせVOC分析を効率化
笠井氏は、WOWOWビューワーズボイスのアンケートの分析のために、「複数のAIエージェントを作成した」と述べ、ポイントを解説してくれた。
最初に作成したのは、「分析系において多くのエネルギーと時間がかかる」という単純集計作業のエージェントだ。従来は、視聴頻度、継続以降、NPSスコアと、多岐にわたるアンケート項目の集計を、手作業で行っていたという。AIエージェントを導入すれば、エンジニアの手を介することなく、コンサルタントが月2回のアンケート結果を簡単に把握できるようになる。
アンケート結果の出力後は、ユーザーが要求すれば、AIが推奨アクションを提示する設計とした。「AIの意見を聞いて、コンサルタントが必要だと判断すれば、自分の手でアンケートを深堀りしていくことができる」(笠井氏)。

続いて、詳細な分析を行うため作成したのが、視聴ジャンルごとの継続意向を出力するエージェントだ。「サッカー番組の視聴者のうち92%に継続意向がある」といった分析が、素早くできる。サッカーとゴルフを比較するなど、他ジャンルとのかけ合わせも可能だ。
また、時系列的な変化に対応するエージェントも作成した。継続意向やNPS、印象変化、魅力度などのアップ/ダウンをチェックできる。「SQLを使えば、魅力度がアップ(ダウン)したグループなど、特定の条件でユーザーの動向を把握することもできる。BIツールと連携して、さらに深堀りする仕組みも構築中だ」(笠井氏)。
AIエージェントの作成にあたって、笠井氏は社内コンサルタントのレビューを受けながら、業務を進めている。「文章が長く要点がつかみづらい」「グラフが少なく視認性に欠ける」「もっとも知りたい情報(印象変化)を可視化したい」といった、フィードバックに一つ一つ対応し、使い勝手のよいエージェントを作り上げた。
特に注意したのは、先に述べた手戻りの削減だ。「コンサルタントがヒントがあると思ったデータの中に、何もない場合もある。その場合、時間をかけてデータを集計しても、ロスになってしまう」と笠井氏。データ分析は効果測定や施策立案のヒント、根拠を探すための作業であり、手戻りの時間を気にすることなく、AIで気軽にデータを見られるようになれば、その精度は格段に上がる。笠井氏は現在、月間で300時間ほどの総工数削減効果を見込んでいるが、単純な効率化以上のインパクトがあるはずだ。
当面の課題はフリーアンサーの分析だ。同社はすべての回答を人が見てタグを付けるという「途方もない作業」(鈴木氏)を行っているが、現在はAIエージェントへの置き換えを試行錯誤している。
今回のPoCでもテストしたところ、「予想以上に、人間に近いタグ付け、グルーピングができた」と、鈴木氏の評価は上々。CDPの統合データを活かすAIエージェントが、より深く、フレキシブルなVOC分析を実現していく。



