地方競馬・競輪・オートレースのインターネット投票サービス「オッズパーク」は会員数約240万人(2025.08時点)を擁する。運営会社のオッズ・パークはいま、「データの民主化」をキーワードに、Treasure Data CDPを中核としたデータ基盤の見直しと、全社的なAI活用を進めている。
マーケティングオートメーション(MA)のリプレイスに加え、AI/AutoMLの導入、さらには全社員が参加するAI Boot Campの実施──。なぜ、ここまで踏み込んだ取り組みを進めるのか。その背景と狙いをひもといていく。

成長の裏で顕在化した、データ分散と属人化の課題
2005年に誕生した「オッズパーク」は、地方競馬・競輪・オートレースといった公営競技のインターネット投票サービスだ。オンライン投票はもとより、レースの出走表やオッズ、選手データ、予想情報、ライブ映像などの閲覧・視聴ができる。
公営競技の市場規模は、オンライン投票の普及に伴い成長し続けている。「オッズパーク」も、こうした市場環境のなかで拡大を続け、現在では約240万人の会員を抱える公営競技のプラットフォームとなっている。
当然、事業の成長とともに顧客データは急速に増加していった。売上データやWeb・アプリの行動ログなど、顧客に関する膨大な情報は部門ごとに分散し、異なるシステムへと蓄積され、全体を横断して把握することが難しくなっていった。
「お客様向けの施策を考えるたびに、複数のシステムからデータを集めて加工しなければなりませんでした。データは鮮度が重要ですが、準備が整う頃には、すでに古くなってしまっていたことが課題でした」
と、オッズ・パークの加藤 徹大氏は振り返る。

データが分散していたことに加え、それを自由に扱える人材が限られていた点も大きな課題だった。データの抽出や分析は特定の担当者に依存しており、他のメンバーは必要な情報があるたびに、担当者や専門部署へ依頼せざるを得ない状況だった。その結果、データの取り扱いは「職人芸」のようにさらに属人化していき、担当者や専門部署任せの状態が続いていた。
「これだけの会員基盤があり、事業も伸びているのに、データを十分に活かしきれていない。このままでは、成長スピードに組織が追いつかなくなると危機感を抱いていました」
(加藤氏)
部分的な改善ではなく、顧客データの扱い方そのものを見直す必要がある。そうした判断のもと、オッズ・パークは「データの民主化」を掲げ、CDP再構築プロジェクトに踏み出した。

CDP再構築プロジェクトで取り組んだ3つの重点テーマ
CDP再構築プロジェクトは、MAのリプレイス、AI/AutoMLの導入、そして「データの民主化」という3つのテーマを軸に設計された。
特に目指したのは、現場の誰もが必要に応じてデータを活用できる基盤への再構築だ。

① マーケティングを「属人化させない」ためのMAリプレイス
1つ目の柱が、MAのリプレイスである。オッズ・パークにとってMAは、多くのお客様との接点を担う重要な基盤である。
加藤氏は、この取り組みを通じて「マーケティングを一人の担当者の仕事にしないことを意識していた」と語る。MAを刷新することで、顧客データやプロジェクトの状況をチーム内で共有しやすくし、社員全員が共通認識をもって施策検討を行える環境づくりを進めていった。
② AI/AutoMLを「分析の代行」ではなく「壁打ち相手」に
2つ目の柱が、AIおよびAutoMLの導入だ。同社では近年、AIをマーケティングや分析業務にどう活かすかを重要なテーマとして位置づけてきた。
Treasure Data CDPでは、操作性やAI機能の進化により、専門的な操作をしなくても、AIとの対話を通じてデータを扱えるようになりつつある。こうした環境を前提に同社が想定したのは、AIを「分析を代行する存在」ではなく、思考を広げるための「壁打ち相手」として活用することだった。
「自社のデータをTreasure Data CDPにしっかり読み込ませれば、さまざまな分析にAIが使えます。チャット形式で対話しながら分析できるので、マーケティングにとって有益な壁打ちや、アイデア出しの相手になってくれる存在だと感じています」
(加藤氏)
③ 「データの民主化」で全社員がデータを使いこなす
3つ目の柱が「データの民主化」だ。加藤氏は、この取り組みを通じて、マーケティング部門に限らず、「今後は社員全員がデータを使って仕事をしていく会社でありたいという意思を示したかった」と語る。
そのために、「できること」から要件を決めるのではなく、全社員・全部署から日々の業務におけるデータに関する悩みを洗い出すことから着手した。「このデータが欲しい」「取得に時間がかかる」「システム部門に依頼しなければならない」などの現場の声を一つひとつ丁寧に拾い上げ、可能な限り要件に反映していった。
背景には、「社員を幸せにする」というプロジェクトの裏ミッションもあった。必要なデータを得るために手間や待ち時間が発生し、本来集中すべき業務が中断される。そうした日常的なストレスをなくすことが、働きやすさにつながると考えた。全社員が自らデータを使って仕事を進められる環境を、会社として用意する。その考え方を、仕組みづくりを通じて体現しようとしていた。
実際にオッズ・パークでは、Treasure Data CDPのアカウントを全社員分発行している。データ活用を一部の専門部署に閉じるのではなく、社員が日常業務のなかで自然にデータに触れられる状態をつくることが、この取り組みを支える重要な要素となっている。
システム導入で終わらせない、AI Boot Campが生んだ変化
オッズ・パークの取り組みで特徴的なのは、基盤の再構築と並行して、社員の意識や行動といった「カルチャー」にも目を向けてきた点だ。

プロジェクトを進めるなかでは、どうしても当事者意識を持ちにくい部門が出てきたり、部門間で認識のずれが生じたりする場面もあった。加えて、同社のビジネスは変化のスピードが速い。昨日まで有効だった施策が、数カ月後には通用しなくなることも珍しくない。そうした環境のなかで、基盤の構築を進めながら、常に「いまの最適解は何か」を問い直し続ける必要があった。
こうした課題意識を背景に、同社がCDP構築と並行して取り組んだのが、全社員向けの「AI Boot Camp」だ。トレジャーデータと共に実施したこのワークショップはハンズオン形式で行われ、全社員の8割以上が参加した。

「CDPやAIを入れて終わり、ということにしたくなかったのです。どれだけ基盤を整えても、社員が使わなければ意味がありません。ワークショップを通じて、社員が実際に使いこなせる状態をスタート地点にしたかったんです」
(加藤氏)
CDP構築はゴールではない。実務に近い状況のなかでAIを使いながら思考する体験を取り入れることで、「現場で使える感覚」を育てることがこのワークショップの狙いだ。設計では、オッズ・パークとトレジャーデータが議論を重ねながら、社員が実際に手を動かし、考え、試行錯誤できるプロセスを検討していった。

当初のプログラムは、生成AIの基礎理解や活用事例を学ぶ座学と、簡単なハンズオンを組み合わせた内容だった。しかし回を重ねるなかで、「聞くだけでは身につかない」「もっと実務に近い形でAIに触れたい」といった声が現場から上がるようになる。そこで内容を大きく見直し、後半は実践に集中するゲーム形式へと舵を切った。
実務に引き寄せることで、AIは「自分ごと」になる
具体的には、参加者をペアに分け、制限時間内にAIを使って課題を解決する演習を行った。「突然、経営層から分析レポートを求められる」といった実務に近いシチュエーションを設定し、AIに問いを投げ、仮説を立て、アウトプットを形にしていく。
その結果、同じ課題に取り組んでも、同じ答えになったペアは一つもなかったという。問いの立て方次第で、結果が大きく変わることを、社員一人ひとりが体感していった。

このワークショップがもたらした効果は、スキル習得にとどまらない。普段あまり接点のない社員同士がペアを組み、議論しながら課題に向き合うことで、社内のコミュニケーションも活性化した。「AIをどう使うか」を考える時間そのものが、業務やデータの見方を見直すきっかけになったという。
さらに印象的だったのが、経営トップ自らがこの取り組みに参加したことだ。経営層が現場と同じ立場でAIに向き合い、試行錯誤する姿を見せたことで、「これは一時的な施策ではない」「会社として本気で取り組んでいる」というメッセージが、自然と社内に共有された。加藤氏も「トップが使う姿を見せたことで、社員の受け止め方が明らかに変わった」と振り返る。
プロジェクトは現在も構築の途中にあるが、その過程で得られた学びは少なくない。加藤氏は、その価値をあらためて実感していると語る。
「当社でいえば、20年分のデータを整理して全社で使っていくには、やはり覚悟が必要でした。ただ、お客様のデータは会社にとって非常に重要な資産です。それをきちんとまとめ、活用していくという意味では、Treasure Data CDPは非常に相性の良いツールだと感じています。一方で、データ活用はツールを入れれば解決する話ではありません。全社を挙げたコミットメントをどう前向きに浸透させていくかは、いまも向き合い続けているテーマです」
(加藤氏)
同社が目指したのは、単なるシステムの入れ替えにとどまらず、組織やカルチャーそのものを変えていくことだった。CDP構築と並行してAI Boot Campを重ねることで、基盤と人の両面から取り組みを進めている。データ活用を業務に根づかせ、組織のカルチャーとして定着させていく取り組みは続く。




