事例顧客
  • 竹山 健司氏
    株式会社TSI
    EC事業統括部 マーケティング・CRM部 データマネジメント課 課長

幅広いアパレルブランドを運営する株式会社TSI(以下TSI)では、2020年にTreasure Data CDPを導入し、広告配信やCRM、在庫管理業務などに利用してきた。特に最近では生成AI(LLM)機能の活用により、施策実行の効率化と、社内におけるデータ活用の普及を進めている。
株式会社TSIのデータ活用を主導する竹山健司氏に、Treasure Data CDP導入の背景から、AIを活用したマーケティング施策の進化、そして組織に起こった変化までを詳しく聞いた。

Engage Studioの活用
CDP内で完結するMA機能の導入でスムーズなコミュニケーションと工数削減に成功
生成AI(LLM)により社内理解を促進
自然言語で簡単にデータ分析ができるLLM機能を導入。データに対する社内の理解を進めた
施策を最適化
幅広い人材がCDPのデータを扱うことで、組織内のコミュニケーションが進んだ

CDPを導入する価値とは?

竹山氏はまず、Treasure Data CDP導入の背景について、3つの観点から説明した。

1. 各チャネルへの速やかな連携

従来は、CDPとマーケティングオートメーション(MA)ツールをはじめとする各種ツールとの連携において、一部で開発対応が必要となるなど、連携基盤の構築に手間がかかっていたという。Treasure Data CDPは、インポート/エクスポートの双方において外部ツールとのコネクターが豊富に用意されており、比較的容易に連携環境を構築できる点に魅力を感じた。

2.マーケティング業務の自動化による工数削減

同社では主に、広告配信やMA領域でCDPを活用している。その中で、広告ツールにおけるターゲティングや、顧客のセグメント抽出といった作業の工数削減が課題となっていた。Treasure Data CDPには、セグメント抽出から外部ツール連携前の処理までを自動化できるワークフロー機能が備わっている。

3. ユーザーIDを一意に捉えたアプローチの効率化

広告やMAなど複数のチャネルを横断しながら、ユーザー単位で一貫したコミュニケーションを行うことも課題の一つだった。Treasure Data CDP上で、各チャネルに分散していた顧客データを統合することで、より適切な顧客コミュニケーションを実現できると判断したという。

こうしたニーズを背景に、同社は2020年10月からTreasure Data CDPの活用を開始した。データ連携・活用の基盤としてCDPを位置づけ、ECおよび店舗の購買データ、CRMデータ、サイトの行動ログ、在庫データなどを集約。それらをWeb広告配信や、メール、LINE、アプリ等を介したCRM施策、Web接客といった複数チャネルの施策に展開している。さらに、Web接客やMAの機能を持つKARTEとも連携し、顧客一人ひとりに応じたコミュニケーションを行っている。

新しいMAツールEngage Studioが解決する課題とは

同社のデータ活用業務は、竹山氏が所属するデータマネジメント課が一貫して担っている。現場の運用で顕在化してきた課題について、竹山氏は次のように指摘する。

課題の一つは、データを集約する基盤であるTreasure Data CDPと、施策を実行する発射台となるマーケティングオートメーション(MA)ツールが、別々に分かれている点だ。データ活用をスピードアップし、よりMAの成果を上げるため、ツール間の切り替えや連携に要する時間が問題視された。

もう一つ竹山氏が挙げるのが、分析や配信セグメントの作成、クリエイティブ制作にかかる工数だ。これらの作業負荷を軽減し、「施策立案など、より付加価値の高い業務に時間を投下したい」(竹山氏)という要請があった。

そうした中、トレジャーデータから提案を受けたのが、CDP内で機能するMAツール「Engage Studio」だった。期待したのは次の4点だ。

  1. メール作成工数の大幅な削減
  2. 高品質なメールを容易に作成
  3. データの一元管理と柔軟なセグメント管理
  4. 運用負荷の軽減と業務の簡素化

竹山氏は従来のMAツールの実績をもとに、Engage Studioに置き換えた際の工数削減や運用負荷軽減の効果を計算した。ROIは従来比約230%となることが想定され、同社はテスト導入を決定した。

まずは、会員登録から5年以上が経過した「超休眠」ユーザー向けの施策にEngage Studioを活用。売上への直接的な効果は限定的だったが、2つの点で成果を確認したという。

1点目は、メール開封率とクリック率。Engage Studioの生成AIで作成したメッセージへの反応は、他のMAツールでシナリオ作成した場合と比較して良好な水準だった。

2点目は、メッセージ内の「アイテムをもっと見る」のリンクから、多くのWebサイト流入が発生したことだ。他のメール施策においても、同様のボタンを設置することで効果が期待できるとの示唆が得られた。

また、業務負荷軽減の点でも、竹山氏は手応えを語る。データ管理からメール配信まで、同じシステム内で一貫できることで、外部ツールとの連携にかかる作業工数、時間を考慮する必要がなくなった。従来は配信エラーが起こると、ツールごとに切り分けた原因究明が必要だったが、Engage Studioの導入によりひとつのシステム内で、確認が済むこともメリットとして挙げられる。

なおUIについては、「エディターが分かりやすくドラッグ&ドロップでメッセージを作成できる」(竹山氏)と評価。動的要素については、実データを差し込む際のプレビュー表示など一部非対応の機能はあるものの、リキッド構文を用いた構築はスムーズに行えているという。

今後の運用としては、大規模ECサイトでの運用をはじめ、カスタマージャーニーオーケストレーション(マーケティングシナリオの作成を効率化するTreasure Data CDPの機能)との連動、さらにLINEやアプリといった多様なチャネルでの活用を視野に入れている。

あわせて、次に解説するLLMとの組み合わせにより、顧客一人ひとりに応じた配信内容や配信タイミングの最適化にも取り組んでいく構想だ。

データ活用のマインドを社内に定着させる

TSIでは、トレジャーデータの生成AI機能活用を、「成果につながるマーケティングの実現」「社内におけるデータへの理解と活用の促進」という2つの観点から進めている。

竹山氏は、その最初の取り組みとして、店舗およびECの購買データと在庫数をSKU単位で可視化したダッシュボードを紹介する。データマネジメント課ではなく、データ活用への関心が高いECの営業部門のメンバーが、トレジャーデータのLLMを活用して作成したものだ。なお、データベースやテーブル構成、各カラムの考え方については、事前にデータマネジメント課から共有されている。

当然、同様の分析はデータマネジメント課でも可能だが、今回は営業部門からデータを示すべき、明確な理由があった。

TSIグループの複数ブランドを扱うECサイトでは、運営を営業部門が担う一方、在庫の管理や配分は各ブランドが判断している。その中で、売れ筋商品の在庫は店舗へ優先的に回され、そのためにECで欠品を起こしているケースが多いのではないか、という仮説を営業部がもっていた。これはECにとっての機会損失だけでなく、顧客満足度の低下を意味する。EC運営を担う営業部門がデータで実態を理解し、それをもとに各ブランドと直接対話する意義は大きい。

実際の話し合いの中で「売れている店舗で販売したい」「外部ECモールで展開したい」といった要望がブランド側にある一方で、「自社ECでの販売が利益面で重要である」との認識も、互いに共有されたという。LLMによる「社内におけるデータへの理解と活用の促進」の効果が示された事例と言えるだろう。

竹山氏によれば、他にも営業メンバー自身が独自の視点、着想から、自主的にダッシュボードを作成する動きが生まれているという。成功体験の積み重ねによって、新たな切り口でデータを可視化する取り組みが、社内で徐々に定着しつつある。

さらに社内におけるデータ活用の事例として、竹山氏はクーポン施策の可視化に言及した。

TSIでは「〇点以上購入で〇円引き」といったクーポン施策を多数実施しているが、従来その効果の測定は、一次的なものにとどまっていたという。クーポン利用からの直接的な売上は計測できるが、その後の継続購買への影響については、十分に分析できていなかったのだ。

そのため、社内ではクーポンの新規顧客獲得の効果は認めつつも「再購入にはつながりにくいのでは?」という疑念があった。そこで竹山氏らは、「5,000円以上の購入で1,000円オフ」のクーポンを、過去に購入経験のないユーザーに配信し、初回購入後の行動を分析。2回目、3回目の購入に至る割合(F2/F3転換率)を確認した。

その結果、F2転換率は42%となり、同社の平均を15ポイント以上上回る結果となった。クーポンなどの施策を闇雲に実施するのではなく、効果を精査し、次の施策を検討することの重要性が、社内で理解されるようになってきたという。

また、複数ブランドが集まるモールサイトという特性を踏まえ、TSIではクロスブランドでの購買を促進する施策にも取り組む。その一例が、異なるブランドの商品を2点以上購入した顧客への割引施策だ。

こちらの施策は十分な効果を認められなかったが、その要因として、施策の実施時期が影響している可能性が見えてきた。大規模なセールから約1カ月の施策実施であったため、在庫状況が十分でなかった可能性が高い。施策の実施時期と在庫の拡充状況を確認したうえで、改めて同様の施策を検討する方針だ。

適切なサポートがあれば未経験でもデータ活用が可能

こうした一連の事例を受け、竹山氏は生成AI導入の成果を次のように評価する。

「データへの苦手意識があると、データベースの画面を見て、触ってみようという意欲自体がなくなってしまう。LLMによって、『自分にもできる』という認識が社員に浸透し、アウトプットも出てくるようになった。目の色が変わってきていることを実感しており、いい循環に入っていると感じる」

(自然言語で)質問すれば、容易に回答を得られるフローが整い、自らデータ分析を行うメンバーが増えた。分析の未経験者であっても、Treasure Data CDP内の顧客データに対する理解が進み、主体的にデータ活用に取り組む素地ができたのだ。

一方で、生成AIは誤回答も出すため、エラー内容を正しく理解し、適切に伝える必要がある。未経験者が完全に一人で使いこなすのは難しく、プロンプトの設計などについて、生成AIを深く理解するメンバーのサポートは欠かせない。また、CDPのテーブルに格納されているデータについても、完全にAI任せで扱うのではなく、ある程度ユーザーが理解し、確認しながら進める必要がある。「定期的に経験者と未経験者が答え合わせをしながら進めていくことが望ましい」(竹山氏)。

LLM導入以前は、社内にデータ活用を拡大させるためには、未経験者が挫折しないよう細かくフォローする必要があった。導入後はAIにある程度の支援を任せ、リソースを適切に配分しながら、データを扱う人材を増やすことができる。データマーケティングの次なるステージを見据え、データ活用の社内理解と浸透を進める構えだ。

導入の背景から、活用後の変化までを公開

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