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花王がCDPで実現する顧客体験創出の実態とこれから

事例顧客
  • 花王株式会社
    デジタル戦略部門 データインテリジェンスセンターデータプラットフォーム部 マネジャー
    尾崎 広幸氏
  • 株式会社電通総研
    エンタープライズ第三本部 データマネジメントユニット デジタルマーケティング部 プロジェクトマネージャー
    武藤 保貴氏

花王は「人をよく理解し期待の先いく企業に」というビジョンのもと、顧客接点の強化を進めている。化粧品ブランドの独自の世界観を伝えるWebサイトや体験を提供する「ブランドD2C」と、共創コミュニティ「My Kao」。これら2つのチャネルを支えるのが、新たに構築されたマーケティングプラットフォームだ。

構築において最大の挑戦となったのは、事業側が求める「機能とスピード」に応えつつ、IT側が死守すべき「コスト・セキュリティ・効率」をいかに両立させるかという点だった。その解として同社がこだわった「自社での自走」とは何か。開発の裏側と、成果を詳しく聞いた。

事業の「攻め」と、ITの「守り」を両立
「スピード重視で攻めたい」事業側と、「安全・効率重視で守りたい」IT側。この相反する要望を、どちらも切り捨てることなく統合したプラットフォームを構築。
外部に依存しない「自走化」の確立
開発から運用までをベンダー任せにせず、社内にノウハウを蓄積。ルール策定や共通基盤化を進めることで、自社だけでスピーディに回せる体制を実現。
CRM強化で客単価34%向上
コミュニティでのコンテンツ体験と、ECでの購買体験を連携。「My Kao」で記事などに触れた顧客は、そうでない顧客より平均購入単価が34%高い結果に。

生活者との接点強化のため、新たなチャネルを展開

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花王が掲げる企業理念「花王ウェイ」。その中核にある「人をよく理解し期待の先いく企業に」というビジョン実現のため、同社はこれまで全国の販売会社をつなぐシステムや、お客様相談窓口の整備など、顧客理解への投資を重ねてきた。

しかし、時代の変化とともに、その基盤にも限界が見え始めていた。同社 デジタル戦略部門の尾崎広幸氏は、当時の課題感をこう振り返る。

「近年、購買チャネルは多様化し、問い合わせ手段も電話からメールやWebが中心になりつつあります。かつて構築した仕組みだけでは、今の生活者の動きを捉えきれず、十分に機能しなくなっていたのです」

(尾崎氏)

そこで同社は、生活者との接点強化を目的に、新たに2つのチャネルを展開した。一つは、「ブランドD2C」。同社が運営しているプレステージ化粧品ブランドについて、独自の世界観や体験をWebサイトなどを通じて提供する試みだ。

もう一つは、花王グループの全ブランドと顧客をつなぐ共創コミュニティ「My Kao」だ。そこでは、役立つ情報の提供や商品販売に加えて、花王の社員と交流できるサロン運営など、多彩なサービスを展開している。

特筆すべきは、「My Kao」がコミュニティに留まらず、マーケティングの基盤としての役割も担っている点だ。同社がオフラインで行ってきた「生活者の声の収集」や「テスト販売」などをデジタル上でも行えるようにしている。「My Kao」は2022年にローンチし、翌年にはのべ1000万人が来訪するなど、順調な滑り出しを見せている。

事業側とIT側双方の希望を叶える仕組みを構築

「ブランドD2C」および「My Kao」の運営にあたり課題となったのは、事業側の思いとIT側の思いの両立だった。

事業側は基本的に、スピード感をもって自由に「攻め」のマーケティング施策を実施したい。加えて、同社は多くのブランドを持っており、現場から数多くの要望が上がってくる。一方で、IT側は効率的なシステム運営やコスト管理に加え、顧客の大事な情報を扱っているため、情報流出などの事故は絶対に防がなければならない。「守り」が絶対条件なのだ。

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ともすれば相反するこれらを、どちらも切り捨てずに両立できるプラットフォームを実現する必要があった。そこで、同社は次の3つのポイントを押さえた仕組みづくりを行うことにした。

「重視したのは、『自走できる』『事故が起きない』『効率的な運営ができる』という3点でした。 社内完結で自走できれば、ある程度自由に、スピード感をもった運営ができます。あとは、運用者の性善説に頼らずしっかりと事故が起きない仕組みづくりをすること、そして共通基盤を利用することによって効率的な運営ができることを標榜しました」

(尾崎氏)
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図:花王グループの複数ブランドに導入したマーケティングプラットフォームの全体像

この構想を実現するため、花王はパートナーとして電通総研を迎え、新たなマーケティングプラットフォームを構築した。

この構造は、表側に「オフライン店舗」や「ブランドD2C」、「My Kao」といった顧客接点を置き、裏側でそれらのデータを統合・連携させる仕組みとなっている。中核には自走化に適した「Treasure Data CDP」を据え、そこに複数のサブシステムが連動する形をとっている。

構築を支援した電通総研の武藤氏は、最大のポイントは「徹底した共通化」にあると説明する。

「データの設計や機能を含め、完全な『共通基盤』として複数のブランドで利用できる形に整えました。単に環境を共用するだけではありません。各ブランドから上がる要望を吸い上げ、そこから共通項を見つけ出し、システム設計に落とし込んでいくプロセスを何より重視しています。 トレジャーデータは、事業部側での『自走』につなげやすく、我々はそこを技術面からサポートしています」

(武藤氏)
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自走化を実現した3つの取り組み

プラットフォームの構築から完全な自走化へ向け、プロジェクトは着実なステップを踏んで進められた。まずは2020年の夏、花王から電通総研へ相談が持ち込まれたところからスタート。そこから約1年という短期間で、開発から複数ブランドの統合までを行い、プラットフォームの骨格を作り上げた。その後は、機能拡張や運用の改善を重ね、システムを段階的に育てていくフェーズへと移行している。

同時に注力したのが、運営体制の自走化だ。マーケティング施策に必要なワークフロー開発などを、外部に頼らず自社で対応できるよう、エンジニアリングの自走化も並行して推し進めた。

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武藤氏は、この過程における両社の関係性の変化について、こう語る。

「当初は我々がブランド(事業)側とIT側の間に入り、要望をヒアリングして共通項を見出し、システムに落とし込むという『橋渡し』を行っていました。 しかし今では、IT部門の方々にシステムや製品のナレッジが蓄積され、要望から要件を定義するところまで自走されています。そのため我々は実装に徹しつつ、次にどう手を打つべきかという、より付加価値の高い領域での支援に注力しています」

(武藤氏)
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自走化への過程では、電通総研からの次の3つの取り組みが特に有効だったという。

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図:マーケティングプラットフォームの開発開始から安定運用までのタイムライン

①CDPとMAのハンズオン
マーケターの施策業務の自走化に向けた取り組みとして実施。マーケターは、たとえば自分たちでCDPを使ったジャーニーの設定ができても、それを本番で稼働させていいかどうかの判断が難しいという課題があった。そこで、どこまでテストすれば、OKかといったノウハウを電通総研から共有し、自走化を実現した。

②データ活用高度化研修
エンジニアリングの自走化に向けた取り組みとして実施。膨大な要件定義書や詳細設計書を読み込んでもらう代わりに、対話型のセッションで理解を深めた。

③CDP共通開発ルール策定
「データ活用高度化研修」と同様に、自走化に向けた取り組みとして実施。CDPは多くの人が利用するため、相互に影響を与えないよう非常に細かな点まで共通の開発ルールを決め、地道に周知徹底した。

CRMにより、平均購入単価が34%向上

構築されたマーケティングプラットフォームは、すでに具体的な成果を生み出し始めている。

「My Kao」において、モール機能だけを利用するユーザーと、記事などのコンテンツにも触れているユーザーを比較したところ、後者のほうが「平均購入単価が34%も向上」していることが判明した。

「これは仮説ですが、『ブランドを知る(コンテンツ)』体験と『買う(コマース)』体験を相互に行き来することで、エンゲージメントが高まり、結果としてLTV(顧客生涯価値)の向上につながっているのだと考えています」

(尾崎氏)
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図:「My Kao」でのCRM施策による売上効果

次なる挑戦は「アーキテクチャの最適化」と「AI」

花王はさらなる進化に向けて2つのテーマを掲げている。 1つは「DWH(データウェアハウス)×CDP×MA」によるアーキテクチャの最適化だ。クラウド上のDWHでデータを統合し、CDPを経由してMAまでシームレスに連携させることで、データ活用をより強固にする狙いがある。

もう1つは、AI活用の加速だ。化粧品ブランドで成果を上げたパーソナライズ施策の他ブランドへの横展開に加え、セグメンテーション業務の効率化や、SQLなどのコーディング支援による開発スピードの向上にも取り組んでいく。

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「これらの手段を用いてPDCAを高速化し、よりきめ細やかなパーソナライズを実現していきます。それが花王にとっても、そして何よりお客様にとっても『良いこと』につながると信じています」

(尾崎氏)

事業とITが一体となり手に入れた「自ら使いこなせる基盤」こそが、変化の激しい時代における最大の強みになる。この自走するマーケティングプラットフォームは、生活者とブランドの絆をより強固にし、花王のマーケティングを次なるステージへと導いていく。

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