サントリーホールディングス株式会社

サントリーがLINEヤフーと挑む「データクリーンルーム」による顧客理解と基盤構築

開封率12.6%改善の裏側
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LDCR(LINE データクリーンルーム for Client)
セグメンテーション

デジタルマーケティングの進化に伴い、企業はこれまで以上に高度なデータ活用を求められている。消費者の行動が多様化する中、従来のマーケティング手法だけでは、適切なターゲティングやエンゲージメントの維持が難しくなってきた。そこで注目されているのが、データクリーンルーム(DCR)の活用だ。

DCRを導入することで、企業はセキュアな環境でファーストパーティーデータと外部データを統合し、より精度の高い顧客理解を実現できる。そして、無駄な広告配信を抑えつつ、関心の高いユーザーに適切なタイミングでパーソナライズされたメッセージを届けることが可能になる。

こうしたDCRの可能性にいち早く着目したのが、酒類飲料業界を牽引するサントリーだ。同社は、直接的な顧客データの収集が難しいというビジネスモデル上の課題に対し、DCRを活用し、より精度の高い顧客理解とマーケティングの最適化に取り組んでいる。本記事では、サントリーがどのようにDCRの採用に至り、どんな成果を得たのか、サントリーホールディングス株式会社 デジタル本部 課長の右近幸一氏と、DCR活用を共に推進するLINEヤフー株式会社 データソリューション企画開発本部 本部長の村田剛氏に話を伺った。

+12.6%
精度高い配信設計によりメッセージ開封率が12.6%向上
セグメント配信
反応度に応じて段階的に配信範囲を拡張する積み上げ式アプローチを実践
分析自走化
クエリの実行なしに、特定のデータセットをもとに自動で分析が回る仕組みを構築

(左)右近 幸一氏

サントリーホールディングス株式会社
デジタル本部 課長

(右)村田 剛氏

LINEヤフー株式会社
データソリューション企画開発本部 本部長

顧客理解を深めるために求められるデータ基盤の進化

サントリーは、日本を代表する酒類・飲料メーカーとして、長年にわたり消費者と向き合い、ブランドの成長を続けてきた。企業理念に「やってみなはれ」精神を掲げる同社は、創業以来、革新的な取り組みを重ね、消費者に新たな価値を提供してきた歴史がある。

しかし、広範なブランドを展開し、多くの消費者と接点を持つ一方で、「お客様とつながる基盤の構築」には大きな課題を抱えていた。飲料業界の特性上、製品は流通・小売店を通じて消費者に届けられる「BtoBtoC」モデルがベースとなる。そのため、実際にどの商品が購入されたのか、消費者の嗜好やライフスタイルの変化を正確に把握することが難しく、個々の顧客と直接的な関係を築くのが困難だった。

「現状、お客様がどの商品を購入し、どのようにサントリー製品を生活に取り入れているのかを一人ひとり正確に把握することはできません。しかし、サントリーの製品は、天然水やソフトドリンクのように幼少期から親しみを持っていただき、成人して20歳を迎えたらビールで乾杯、年を重ねて高級ウイスキーを嗜む、健康を意識して特保飲料や健康食品をとりいれていただく…といったように、一生涯にわたって寄り添えるものです。だからこそ、『お客様の生涯×サントリー』で捉え、お客様の生活・人生に寄り添いながら“生命(いのち)に輝きを”与えられるような顧客基盤をつくることが、私たちの新たなミッションだと考えています」と右近氏は語る。

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この課題を解決するため、サントリーはデジタル上での顧客接点を強化する取り組みを進めてきた。その一環としてLINE公式アカウントの運用を本格化し、「サントリー」公式アカウントは3700万人、「おとなサントリー」は2400万人と、業界トップクラスのフォロワー数を誇るまでに成長した。さらに、個別のブランドやグループ傘下事業等のアカウントを含めると50以上のアカウントを運用し、宣伝だけでなく、キャンペーン施策や販促プラットフォームとして活用している。

しかし、右近氏は「単にフォロワー数を増やすだけでは十分ではない」と指摘する。フォロワーのアクティブ度や購買行動との関連性を正確に把握し、それに基づいた最適なマーケティング施策を展開しなければ、効果的な顧客コミュニケーションにはつながらないからだ。

データをより高度に活用するために、サントリーはLINEヤフーとトレジャーデータの3社で協力し、新たなマーケティング手法の確立に取り組んでいる。

「LINEデータクリーンルーム for Client」で進化するマーケティング

サントリーがLINEを活用したマーケティングを推進する中で、データの構造上、ターゲットが限定されてしまうという課題を抱えていた。特定のセグメントに向けた大規模な告知が難しいこと、また逆に配信範囲を広げると興味関心の低いユーザーにも情報が届きやすくなり、メッセージの開封率の低下やROI(投資対効果)の悪化を招く懸念を抱えていた。

こうした課題を解決し、より効果的なリーチを実現するため、サントリーはLINEヤフーと協力し、トレジャーデータとLINEヤフーが共同で開発したLDCR(LINE データクリーンルーム for Client)を活用したデータ統合とターゲティングの精度向上に踏み切った。

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LDCRは、約9700万人の月間利用者を抱えるLINEのデータとファーストパーティーデータとの掛け合わせを可能にするデータ活用基盤だ。LDCR自体にトレジャーデータのデータ基盤を活用することで、膨大なデータを柔軟かつ高速に統合・分析できる環境を実現していることに加え、LDCRへは「Treasure Data CDP」からのみ接続可能だ。現時点においては、LDCRではLINE公式アカウントのデータがサントリーの顧客データを統合して、興味関心・行動パターンを精緻に把握できる。

「当社の従来のデータ構造では、ターゲットの範囲が狭く、適切なセグメントにメッセージを届けるのが難しい状況でした。しかし、せっかく獲得したLINEの友達会員に対しても、興味関心の高い層に効果的にリーチするためには、より精度の高いターゲティングが不可欠でした」(右近氏)。

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サントリーホールディングス株式会社デジタル本部  課長
右近 幸一氏

従来、サントリーは一部の購買履歴やキャンペーン参加履歴をもとにターゲティングを行っていたが、それだけでは本当に関心の高いユーザーにリーチできているとは限らなかった。そこで、メッセージの開封履歴を活用することで、より関心の高い層にアプローチできる可能性を見出し、その実現方法を模索する中で、LDCRの活用を決定した。

開封履歴を基軸としたセグメント配信の実践

具体的には、ユーザーをメッセージの開封率の高さ順に分類し、最も反応が良い層から順に配信範囲を広げる「積み上げ式」の手法を採用。このアプローチでは、まず開封率が一定水準以上以上のユーザーに優先的にメッセージを配信し、その結果を分析する。その後、関心度の高いユーザーから順にターゲットを広げ、適切なタイミングで情報を届けることで、配信効果の最大化を図った。

また、メッセージの未開封期間が長くなるほど開封率が低下する傾向があることから、過去4ヵ月以上未開封のユーザーは一斉配信の対象から外し、別途リカバリー施策を実施する。

この施策の結果、メッセージの開封率は12.6%向上。従来の一斉配信と比較して、無駄な配信を削減することでより精度の高いターゲティングが可能になった。

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さらに、購買データと組み合わせることで、より精緻なターゲティングが実現し、広告費の削減とROIの向上にも寄与している。

「1%の改善でも、全体の規模を考えれば大きなインパクトを生みます。このアプローチにより、無駄な配信を削減しながら、より高いエンゲージメントを実現できました。結果として、LINEの全配信にかかる広告費を抑えつつ、より効果的なリーチを確保できるようになりました。こうしたROI改善の成功事例を、今後は社内でも展開していきたいと考えています」(右近氏)

スピーディーにインサイトを得て施策化する環境構築

LDCRの導入にあたり、サントリー、LINEヤフー、そしてCDPを提供するトレジャーデータの3社は、単なるデータの統合にとどまらず、実際の運用面でも効率的に活用できる環境の構築を推進した。

LINEヤフーは、サントリー向けにデータ分析のテンプレートを開発し、マーケティングチームが日常的にデータを活用できる仕組みを整備。これにより、専門知識がなくても迅速に分析結果を得られる環境を実現した。

「データクリーンルームは、通常データサイエンティストやアナリストが分析する環境ですが、ニーズに応じたテンプレートを開発することで、よりスムーズにデータ活用ができるよう支援しました」(村田氏)

従来のクリーンルーム環境では、データを分析するためにはアナリストがクエリを実行する必要があった。しかし今回、特定のデータセットをもとに自動で分析が回る仕組みを構築したのだ。

サントリーの右近氏も「これほど密接に支援してくださったことは、非常に心強かったです。これまで自社では手が回らなかった開封ログの取得や、セグメントごとの配信最適化をサポートいただき、より精緻なターゲティングが可能になりました」と語る。これにより、サントリーのマーケティングチームがよりスピーディーにインサイトを得て、施策に反映できる環境が整った。

さらに、トレジャーデータのカスタマーサクセスチームも伴走し、サントリーのマーケティングチームがデータ分析を自ら行えるよう支援している。特にSQLの知識がないメンバーでもデータ活用ができるよう、トレーニングを実施した。

LDCRの進化がもたらすマーケティングの新たな可能性

今後、サントリーは開封履歴データの活用にとどまらず、顧客のライフステージの変化や嗜好の移り変わりを把握し、より高度なパーソナライズ施策へと発展させることを目指している。

右近氏は「開封しているかどうかは、あくまで入り口に過ぎない」とし、ビールやウイスキーなどの嗜好の変遷や関心の高い製品カテゴリーを把握することで、より深い顧客理解に基づいたマーケティングを展開していく考えを示した。

一方、LINEヤフーもLDCRをさらに発展させ、より多くの企業がデータを活用しやすい環境の構築を進めている。村田氏は、「サントリー様のように、ライフスタイルに寄り添いながら長期的に顧客との関係を構築していく企業にとって、データを継続的に蓄積し、それを活用することが非常に重要です」と述べ、データクリーンルームの役割を「単なる分析基盤ではなく、顧客とのコミュニケーション履歴を長期的に管理し、広告や公式アカウントを活用した一貫したマーケティングを可能にするプラットフォーム」として捉えていくことがマーケティングの新たな可能性を開くとの見解を示した。

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LINEヤフー株式会社 データソリューション企画開発本部 本部長
村田 剛氏

また、今後の重要なテーマの一つが、LINEとYahoo! JAPANのデータクリーンルームの統合である。現在、両者はそれぞれ独立した運用をしているが、これを統合することで、より包括的な顧客理解が可能となり、マーケティング戦略の精度向上が期待できる。

「最終的には、LINEとYahoo! JAPANのデータクリーンルームを統合し、Yahoo! JAPANのデータを活用することで、消費者の興味関心を深く理解し、その情報を基にLINE公式アカウントで適切なコミュニケーションを取ることを目指しています。これにより、1億人規模のデータを活用した新たなCRMの形を実現できるのではないかと考えています」(村田氏)

こうした取り組みにより、LDCRは単なるデータ統合のための環境ではなく、企業がマーケティング戦略を高度化するための重要なインフラとしての役割を担っていくことが予想される。今後も、サントリーをはじめとする企業がLDCRを活用し、より顧客に寄り添ったマーケティングを展開できるよう、環境整備が加速していく見込みだ。

事例集

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