株式会社山田養蜂場

DX推進の心理的障壁をいかに下げるか

山田養蜂場が取り組む通販営業部門のCDP活用
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ジャーニーオーケストレーション

岡山県の豊かな自然に囲まれた場所にある山田養蜂場は、ローヤルゼリーを用いた製品群で知られる。創業者は、病を患う娘の回復を願い、ローヤルゼリーの生産を始めた。以来、この環境を生かし、健康志向の多彩な商品を展開してきた。

同社の会員層は主に60~80代の中高年で、定期購入が60%を占める点が大きな特徴だ。だが、長年にわたり通販事業を続けてきたことで、データ分析・活用のための工数やスピード感に課題を抱えていた。

こうした課題を解決し、膨大な顧客データから迅速に示唆を得て施策につなげるため、同社はTreasure DataのCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム、以下CDP)を導入。さらに、Treasure Data Customer Journey Orchestration(カスタマー・ジャーニー・オーケストレーション、以下ジャーニーオーケストレーション)も採用し、顧客アプローチの最適化を進めている。

システムへの専門知識がなくても活用できるCDP導入の背景について、山田養蜂場 通販営業部 デジタルマーケティング室の有馬健司氏に話を伺った。

1~2週間が
数時間に
CDP導入により販促メンバー自身でデータ活用が可能になり、データ抽出・分析の時間が1~2週間から数時間に短縮。
推進メンバー
「推進メンバー」を設け、現場でのスムーズな定着を推進。
業務効率化
ルーチン業務の負担が減り、システム部門が専門的な業務に集中できるように。

株式会社山田養蜂場
通販営業部 デジタルマーケティング室
有馬 健司(たけし)氏

CDP導入で打破するデータ分析の壁

「ローヤルゼリー」や「プロポリス」をはじめ養蜂技術と製造ノウハウを活かし、はちみつや植物素材を使った商品を展開する山田養蜂場。現在の商材構成は、健康食品が60%、化粧品が30%、はちみつ関連商品が10%を占める。顧客との関係構築に力を入れており、顧客一人ひとりへの丁寧なヒアリングを通じて最適な商品を提案するため、最初に顧客が希望したものとは異なる商品を紹介することも少なくない。

今回話を伺った有馬氏は、2020年に新卒入社し、コールセンター業務でアウトバウンド業務(電話発信)を担当。その中で「売りやすい商品と、売りにくい商品の差は何か?」という疑問を抱いたことがデータ活用へ関心を高めるきっかけとなった。「当初は趣味の延長でエクセルを使って分析していましたが、思うようにできない場面も多く、限界を感じていました」と有馬氏は振り返る。

その自主性が評価され、有馬氏は2021年10月、システム室分析課へ異動となった。

「システム室分析課には、様々なデータ分析依頼が寄せられますが、販促担当者から依頼のあるキャンペーンの分析を行う際、見たい視点で分析ができないケースが多々ありました。また、商品別の採算を見る分析においてもサイロ化されたデータ構造だったため実現が難しいという課題がありました。『これは難しいです』と回答せざるを得ない場面が増え『どうしたら実現できるのか、一元管理できるツールはないのか』という課題が顕在化し、CDP導入の提案に至ったのです」

その提案を後押ししたのが、2024年1月にDX推進の組織の整備だった。約40名の販促メンバーがデータを直接扱える環境を整えることを目指し、CDP導入プロジェクトが進められた。

使いやすさ、柔軟性、そしてスピードを評価

CDP選定のポイントとなったのは、大きく2つ。ひとつは、前述のように多様な視点でデータを抽出し、示唆を得て施策に落とし込めること。もうひとつは、スピードだ。

当時は、システムのメンバーが基幹システムでデータを統合し、セグメント情報を抽出して販促メンバーに共有するまでに1~2週間かかっていた。さらに、担当者が変わるたびに、セグメントの設定を一からフルスクラッチで作り直す必要があった。また、「ターゲットを10歳刻みで分析したが、5歳刻みでも見たい」といった要望が後から出ても、データ容量の制約からBIツールに戻らねばならず、煩雑な作業が発生していた。

図1

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図1: CDP導入以前はシステム担当と販促担当が要件をすり合わせた後、システム担当がSQLでデータのセグメント軸を作成していたが、現在はCDPの画面を一緒に見ながら要件をすり合わせられるようになり、日数が大幅に削減された。

「個人的にも、古いシステムに縛られるのではなく、もっと新しいことに挑戦したいという思いがありました」と有馬氏。他のツールも検討しつつ、Treasure Data CDPに早くから着目し、選定を進めた。

Treasure Data CDPを評価したポイントは、以下の3点だ。

  • 柔軟性
    複数カテゴリーの商材を扱う同社では、各部署が異なるツールを活用しているが、Treasure Data CDPはそれらの外部ツールとの連携が容易で統合を進めやすい点で有用性が高いと判断された。
  • 処理スピード
    1〜2週間かかっていたセグメントデータの整備が、Treasure Data CDPでは数時間で完了し、しかも販促メンバー自身で実行できるようになった。
  • UIの使いやすさ
    一般的に、システム担当者が使いやすいと販促担当者が使いにくく、その逆の問題が起こりがち。 だが、双方に適したUIが用意されている点が大きな利点になった。

CDPでは、特定のBIツールとセットだったり、データ抽出元に制限があったりすることも少なくない。それに対して、Treasure DataのCDPは「ほぼすべてのツールに対応し、データを一元管理しながら分析・加工もできる柔軟性が群を抜いていました」と有馬氏は振り返る。

運用コストについても、CDPは5年、10年と中長期的な活用を前提とした投資であり、「社長がデータ活用に意欲的だったこと、さらにトレジャーデータのサポートが非常に親身だったことで、コストの面もクリアできました」と語る。

営業部主体の導入で、現場の活用を促進

システム導入に対する社内の意識には部署ごとに差があり、新しいシステムやツールを入れる際には、多かれ少なかれ反発が生じることが少なくない。

そこで今回の導入では、こうした意識の差を埋める工夫がなされた。あくまでシステム部門主導ではなく通販営業部のプロジェクトとして位置づけ、「営業活動に役立てるために営業部が導入する」と主体を明示したのだ。

同時に、有馬氏と上長が通販営業部に異動。「通販営業部から社長に提案する形をとりました」と有馬氏は説明する。一定の費用がかかるからこそ、導入時から心理的な障壁をできるだけ取り除き、「導入したものの活用されない」といった事態を防ぐ狙いがあった。

「新しい仕組みや取り組みには、どうしても反発がつきものです。しかし、今回はネガティブな声がすぐに収まり、むしろ操作方法や『こんなこともできるのか』といった前向きな質問が多く寄せられました。おそらく『使ってみたら難しくなかった』と順応してもらえたのだと思います。これは非常に珍しく、早い段階から活用が進む期待が持てました」(有馬氏)

こうした取り組みが奏功し、過去の経験と比べても導入は非常にスムーズだったという。

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有馬氏自らも営業部に異動し、現場での活用を加速させた

自分の分身をつくればいい。スムーズな運用体制を構築

運用に関しても、販促メンバーが主体となって業務に活用できる仕組みを構築した。その鍵となったのが、「自分の分身をつくる」という発想だ。

システムやIT系担当者には、社内の「システムで困った」という相談が集中しがちだ。有馬氏も以前、そのような状況に直面していた。今回も同様の懸念があったため、上長に相談したところ、「あなたの分身をつくればいい」というアドバイスを受けたという。

そこで、データ分析に明るく、有馬氏と連携を図る販促メンバー数人を「推進メンバー」に任命。すべての問い合わせが有馬氏に集中するのではなく、まず推進メンバーが対応し、それでも解決できない場合に有馬氏に相談するという連絡体制を整備した。

この仕組みにより、細かい質問は部署内で迅速に解決できるようになり、有馬氏の負担も軽減された。「さらに、私のもとに寄せられる相談は他の部署でも共通の課題であることが多いため、解決後に全員へ共有することで、効率的な横展開も可能になりました」と有馬氏。

現在、導入から約半年が経ち、環境整備がほぼ完了。推進メンバーにはTreasure Data CDPのレクチャーを先行して実施し、それ以外の一般メンバー向けには定期的な勉強会を開催。さらに、推進メンバーがコンソール操作に習熟した段階で、一般メンバーに開放するという段階的なアプローチをとった。

こうした工夫の結果、現場への定着は順調に進んでいる。

IT人材が専門スキルの発揮に時間を割けるように

CDPの導入後、商材に応じてジャーニーオーケストレーションの活用も開始した。長年にわたり、通販事業を展開してきた同社では、細かい施策も含めるとアクティベーション数が3000にも及ぶ。現在、既存の情報系システムで稼働しているこれらを整理・最適化しながら、新たにジャーニーを構築している。

従来はバッチ処理で管理していたため、修正作業が非常に煩雑だった。しかし、ジャーニーオーケストレーションを活用することで一元管理が可能となり、共通のジャーニーの仕様に沿った運用ができるようになった。これによりルールが明確化され、業務の大幅な効率化が期待されている。

さらに、副次的な効果として、システム部門のメンバーが専門性を発揮しやすい環境が生まれた。「単純に工数削減はもちろん、データ分析や活用に精通するメンバーが、受動的な対応に時間を割く必要がなくなりました」と有馬氏は実感を込めて語る。

「システムのメンバーのリソースが空いたことで、使いにくかったツールのチューニングや、販促メンバーへの『攻め』のアドバイスなど、専門的な見地から積極的に動けるようになりました。IT人材の役割が変わりつつあり、まだ兆しの段階ですが、この変化は当社にとってかなり大きなインパクトになります」(有馬氏)

DX組織の整備やCDP導入を経て、社内の変革は着実に進んでいるが、全社的なDX推進については「これから」とのこと。しかし今後の展望は広がりを見せている。

例えば、新規顧客獲得のためのWeb広告配信の最適化だ。全配信を見直し、非会員向けに特化して表示させ、会員向けには別のアプローチができるように計画している。LINEやメールマガジンなどを活用した具体的な販促施策も検討中だ。

また、AI活用にも積極的に取り組む。有馬氏は、AI Agent Foundryの導入を検討している。「ユーザー会で事例を聞き、非常に便利だと感じました。これまでセグメンテーションは、『職人の勘』に頼る部分もありましたが、それでは良くも悪くも過去の事例に引っ張られてしまいます。生成AIを導入することで、より確度の高い新しいケースを生み出せると考えています」

さらに「次のステップとして、コールセンターのメンバーにもCDPを開放する予定です。『自分が受注した顧客はどうなっているのか』といった関心から、データドリブン思考を身につけてもらえたら」と有馬氏は展望を語る。

CDP・ジャーニーオーケストレーションの活用によって業務効率化・最適化を進めると同時に、データへの心理的障壁を下げることで、変革をスピーディに推進できる組織への進化につながりそうだ。

Treasure Data CDP事例集:小売・アパレル業界編

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小売・アパレル編

導入の背景から、活用後の変化までを公開