マーケティングにおける「ネクスト・ベスト・アクション」を見出す

What is Next-best Action In Marketing?

ネクストベストアクション(Next-best Action : NBA)は、顧客を望ましいコンバージョンポイントに近づけるために取るべき最も効果的なマーケティングアクションを、企業が特定するための戦略です。マーケティング活動を最適化し、マーケティングキャンペーンの投資収益率(ROI)を向上させることを念頭にデザインされています。

ネクストベストアクションが最も活用される場面は?

ネクストベストアクションモデルは、マーケターがキャンペーンの効果を高め、生産性を向上させ、より高いROIを生み出すために、さまざまな方法で活用されます。

  • マーケティングキャンペーンの最適化:より戦略的にユーザーのターゲティングを行い、目標とするコンバージョンのゴールに向けて獲得単価(CPA)、クリック単価(CPC)、広告費用対効果(ROAS)などのKPIを改善します。
  • マーケティングリソースの無駄を削減:時間の経過とともに効果の低いマーケティング活動を特定し、キャンペーンプランから徐々に削除することで、より効率的に時間と予算を活用できます。
  • パーソナライゼーション、カスタマーエンゲージメント、カスタマーエクスペリエンスの改善:適切なメッセージを、適切なユーザーに、適切なタイミングで、適切なプラットフォーム上にて届けることで、個人の行動や嗜好に基づいて、個々のユーザーの共感をより深める首尾一貫したカスタマージャーニーが実現できます。
  • 効果的なA/Bテスト:マーケティングキャンペーンを開始する前に様々なA/Bテストのシナリオをシミュレートし、異なる戦略のパフォーマンスを比較できます。実際の施策に全ての予算を投入する前に、モデルへ学習させることができます。
  • 競争力の維持:ネクストベストアクションモデルは、消費者行動や市場動向など、マーケティング活動に影響を与える要因の変化を素早く特定し、対応するのに役立ちます。ダイナミックに変化するマーケティング環境やユーザーの嗜好にリアルタイムで対応し続けることで、企業は競合優位性を保ち、市場で強い存在感を維持することができます。

ネクストベストアクションを取るために最も利用される機械学習(ML)モデルとは?

ネクストベストアクションに有効なMLモデルのひとつに、強化学習(Reinforcement Learning : RL)というものがあります。RLは、期待される報酬を最大化するような行動を推奨するモデルを学習させるMLの一種です。行動を起こすたびに、モデルは肯定的または否定的なフィードバックを受け、各行動から得られる期待値の合計を最大化するように意思決定プロセスを更新します。

RLモデルは、チェスやボードゲーム、囲碁などのターン制ゲームの最適な勝利戦略を見つけるのに最適なMLアルゴリズムです。実際、RLに基づくアルゴリズムであるAlphaGoは、囲碁の世界チャンピオンを初めて破ったコンピュータプログラムとして有名です。

RLモデルでは、最良の結果を導くための意思決定を行うために、マルコフ決定過程(MDP)と呼ばれるプロセスを使用します。これは、環境、エージェント、状態、行動、および報酬を使用して結果を特定し、最適化を行うプロセスです。

RLフレームワークとマーケティングの関係

マルコフ決定過程(MDP)を使用してマーケティングデータを処理するためには、環境、エージェント、状態、報酬、端末、行動など、複数の要素を考慮しなければなりません。

例えば、あるeコマースのマーケティング担当者が、マーケティングのROIを最大化するために、デジタル施策のキャンペーンを最適化したいと考えたとしましょう。この担当者は、顧客がオンラインで購入する可能性を最大化する広告を表示して、目的を達成したいと考えました。MDPのフレームワークをもちいて、それを定義する一例を示します。(図1):

  • 環境:一連のマーケティングアクションの実施が可能であるデジタル広告プラットフォーム(Webサイト、メールプラットフォーム、ソーシャルメディアプラットフォームなど)。
  • エージェント:様々なデジタルチャネルを通じてブランドと関係を持ち、パーソナライズされたマーケティングメッセージを受け取っている顧客。
  • 状態:特定のユーザーがカスタマージャーニーのどの段階にいるのか、あるいはどの商品ページを最後に訪れたのかなどを定義できます。
  • ターミナルステート(終了状態):カスタマージャーニーの最終状態を意味します。これは通常、コンバージョンまたは失敗したコンバージョン(もしくは解約)であり、所定のユースケースで否定的な結果が考慮されるかどうかに応じて異なります。
  • アクション:例えば、パーソナルオファーを送るのに最適なチャネルを見つける、最適な広告を展開する、特定のチャネルで最適なメッセージを配信するなど、コンバージョンの可能性を最大化するためにマーケターが取ることのできる行動です。
  • リワード(報酬):実行された各アクションの結果やユーザーの反応に基づいて受け取るフィードバックです。Eコマースの例では、コンバージョンイベントの価値がこれにあたります。
NBA Diagram: The MDP Framework

図1.MDPのフレームワーク

ネクストベストアクションを講じるためのカスタマージャーニー例

それでは、構築したネクストベストアクションモデルの性能を、実際にはどう計測するのでしょうか?

ネクストベストアクションのパフォーマンスを測定する最も一般的なアプローチは、A/Bテストのフレームワークを構築することです。これにより、ネクストベストアクションモデルを用いたマーケティングKPIと、導入以前に実施されていたマーケティングキャンペーンの成果を比較することができます。

NBA Diagram 2

図2.ネクストベストアクションのパフォーマンスを測定する

ここでは、A/Bテストの簡単な設定方法をご紹介します:

  • 過去のユーザー行動データを使用してモデルを訓練し、現在のマーケティング戦術を学習させる。
  • 個々のユーザーにおけるネクストベストアクションに基づいたマーケティングアクションのリストを返す。
  • ユーザーをコントロールグループとテストグループに分ける。
  • コントロールグループには従来のマーケティング戦術を継続的に実行する。
  • テストグループにはネクストベストアクションモデルによるレコメンデーションを使用する。
  • キャンペーンのパフォーマンスを長期的に追跡するダッシュボードを構築する。
  • マーケティング戦略を適宜調整し、マーケティングキャンペーンのROIを最適化する。

図3は、トレジャーデータで構築したダッシュボードの例で、当社のネクストベストアクションモデルがお客様にもたらす価値を追跡し、以前のマーケティング活動と比較することが可能です。

Example NBA dashboard

図3.NBAのダッシュボードの例

以下の指標(図4)は、トレジャーデータ社内でNBAモデルに対して行ったA/Bテストの結果であり、トレーニング用に90日間の過去のWeb履歴データ、フォワードテスト用に30日間のデータを使用しました。テストには、2万ドルのシミュレーション予算を適用しました。

NBA Dashboard

図4.A/Bテスト指標

以下(図5)はTreasure Data のAudience Studioを使用した一例です。Audience Studioでは、マーケターは使いやすいUIでオーディエンスを定義し、マーケティングキャンペーンのアクティベーションを行うことが可能です。 ここでは2つのMLモデル出力――ネクストベストプロダクト(レコメンデーションエンジンモデル)とネクストベストチャネル(NBA RLモデル)――を組み合わせています。この例では、全顧客を対象としたAudienceを作成し、ネクストベストプロダクトは自転車用ヘルメットで、ネクストベストチャネルはSocialに設定しました。

このセグメントは、様々なソーシャル広告チャネルにアクティベーションされます。該当するソーシャルプラットフォームを閲覧するユーザーがいれば、自転車用ヘルメットの広告が表示されるスケジュールがなされます。

NBA Use Case

図5.Audience Studioによる、2つのMLモデル出力を組み合わせたセグメントの例

マーケティングにおけるネクストベストアクションの活用

RLは、マーケティングにおいてネクストベストアクションを特定するために効果を発揮するものです。リアルタイムのデータを用いてキャンペーンを継続的に評価および最適化することで、企業は最もインパクトのある意思決定を確実に行うことができるようになります。

また、RLではさまざまなマーケティング戦略を試すことができます。消費者行動の変化に迅速に対応することも可能です。

ML分野が進歩するにつれ、RL技術を導入する企業は大きな競争優位性を持つことになります。トレジャーデータのMLチームは、お客様がデータに基づいた意思決定を行い、マーケティング戦略を常に改善できるよう、ネクストベストアクションとネクストベストプロダクトのソリューションを継続的に最適化し、改善を続けています。Treasure Data Customer Data Cloudは、お客様が時代の先端を走り、長期的に効率と収益の成長を促進することに貢献します。

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Gurbaksh Sharma

Gurbaksh Sharma
Treasure Data, Inc. シニア機械学習エンジニア

機械学習、強化学習、予測、マーケティング技術において5年以上の経験を持つ機械学習(ML)エンジニア。トレジャーデータのシニア機械学習エンジニアとして、主にテクノロジーとデータによる複雑な問題の解決に取り組んでいます。

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